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彼女とともに暮らすようになってずいぶんの時間が経った頃、彼女はいつもと違うご飯を用意してくれた。わたしがなんだこれ? と見ていると誕生日だよと教えてくれた。誕生日の意味がわからないでいると、誕生日とは貴女が生まれた日だと言われた。わたしはわたしがいつからわたしとして存在しているのか、気がついたときからわたしとして存在していたわたしには、その誕生日というものがわたしにとってどれほどの意味があるのか。困惑していると、貴女にとっての誕生日は私と出会った日が誕生日だよと彼女が言った。
わたしと彼女が出会った日がわたしの誕生日。でもそれじゃあ誕生日じゃなくて記念日じゃないのかと思う。が、目の前に差し出されたいつもと違う豪華なご飯を前にするとそんなことは些細なことだった。彼女はわたしの頭を撫でながら微笑んでいた。
それからしばらくしてのある日、彼女の様子はいつもと違っていた。いつもならパソコンとにらめっこしているはずなのに、今日はずっとふさぎ込んでいた。そっと彼女に近づくと頭を撫でられた。どうやら自分の描いた作品が全然受け入れられなかったそうだ。わたしには彼女がなにを描いているのかわからない。ただふさぎ込んでいる彼女を見ていると、そっと彼女の手に触れたくなった。
彼女は痛いよと笑っていた。
わたしは大丈夫だよ、と呟く。
けれどその声は彼女には届かないだろう。それでもわたしは彼女に伝えたかった。彼女がわたしにしてくれたみたいに彼女になにかしてあげたかったんだ。それからまた彼女はずっとパソコンの前に座るようになった。わたしはそれを邪魔しないようにいつものように窓の外を眺めていた。
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