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天敵からの甘い誘い
「董子ー!!」
3階の作業場に響くのはいつもの声。
はいはい、と声の主に聞こえないようにやる気のない返事をしてから董子は息を吸った。
「はいー!!」
3階の作業場の奥からした董子の声を聞き、声の方向にどかどかと歩いてくる大きな足音。
「佐古さん、何ですか」
在庫チェックをしながら董子が声を発すると、スパンと小気味良い音を立てて後ろ頭が叩かれた。
「痛い、何ですか!」
「お前、これ、発注してねぇだろ!」
しとけっつったろ!とさっき叩かれた丸めた紙で、今度は頭の上をポカポカと叩かれながら差し出されたパンフレットを見る。
そのパンフレットには流行りのキャラクターの新しいステーショナリーライン。
「これ、担当が本間さんだから、彼女に伝えましたよ」
「お前がそう言った後、あいつはすぐ忘れるからお前にやっとけって言ったよな?」
「…………あ?」
「このバカ!お前も脳みそ腐ってんのか!」
「けど、そんなこと言うなら、佐古さんだってこないだバレンタイン発注の時、大口の忘れそうになってて、教えたの私じゃないですか!」
「うるせー!とにかく今すぐ先方に電話入れて確保してもらえ!」
「…………横暴」
「何か言ったか?」
「……いえ」
足音も荒く佐古がエレベーターで降りて行くのを確認してから董子は作業場にある電話に向かった。
馴染みの会社の馴染みの担当を呼び出して貰い、在庫の確認をすると、発注があると思って置いています、との答えが返ってきて、董子はホッと息を吐いた。
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