その9

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その9

 喉が渇いて目が覚めた。  隣には憎たらしいくらいにすやすやと寝息を立てている正輝くんが目に入った。ぼんやりした頭のまま周りを見渡せば、どうやらここは寝室のようだ。 「まさか夜通し語りつくされるとは思ってなかった……」  外はもう夜明けのようだ。うっすらと太陽の日差しが窓から差し込んでくる。 「おはよう、まなみさん」 「おはよ」  さては狸寝入りを決め込んでいたな、と思いながら、私は仕方ないと溜息をついて彼を見つめる。 「ねぇ、正輝くん」 「何です?」 「君の気持ちは分かったけど、私にも考える時間はくれるのかしら?」  ひとまず相手の気持ちに寄り添う姿勢を見せつつ、距離を測る。 「もちろん」  にっこりと彼は笑う。そこに暗い意図は見えない。だからこそ、ちょっと怖いんだけどね? 「ひとまず連絡先交換から、でしょ」  一晩中、夜が明けるまで話をして、少しずつ会えなかった間の彼のことも分かってきたような感じがする。感じだけ、だけど。  鼻歌を歌いながら自分のスマホを取り出して私に預けてくるので、頼まれるままに連絡先を登録した。 「私、あんまりスマホ見ないんだけど、返事が遅れても怒らないでね?」 「ないですよ。ふふ。まなみさんの連絡先、うれしいな」  そうやって笑っていると年相応に見えるのに、たまに何だかひどく獰猛な獣みたいな目をすることがあるのだけが気にかかる。 「ありがとう、まなみさん」 「うん?」 「俺を拒絶することも出来たのに、受け入れてくれて」  そういう寂しげな顔はずるい。ずるいったらずるい。世話焼きの心がうずいて仕方ないじゃない。 「……向こうに戻ったら、また連絡するね」 「はい。待ってます」  待てと言われたらいつまでも。まるで忠犬ハチ公みたいに待ってそうな雰囲気だったので、連絡をこまめにするのは苦手だけど出来る限りは返そうと思った。  自宅に戻ってから数日後に、彼が隣に越してくることは予想出来ていなかったけど、ね。  夜が明けるまで話し合うこと数回、大学を出て就職もした彼の本気を見せられて私は白旗をあげたのだった。  本当に、私なんかのどこがよかったんだろうね?  これは一枚の写真がきっかけで、私が生涯の伴侶を得るおはなし。  
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