第13章 理屈じゃなく、ただそこには絶望しかない。

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第13章 理屈じゃなく、ただそこには絶望しかない。

男三人相手に抵抗しても限度がある。わたしは結局、スタジオの冷たい床の上に仰向けに組み伏せられていた。 改めて自分の上から覗き込んでる卑しい表情の二人の男たちを見ても、やっぱりこれまでどこかで顔を合わせた記憶はない。おそらく海くん(『くん』付けもしたくない。だけど、代わりの呼び方を考えてる余裕はもちろんない…)がわざわざこのために呼んだ、音楽とは関係のない知り合いなんだろう。例えばナンパ仲間とか。 ずいぶん質の悪い人脈があるんだな。多分、わたしたちに普段見せてる顔とは違う裏の部分があったんだなと今更ながら思う。 「カイ。…この子、何とかならない?めちゃくちゃ暴れるじゃん。聞き分け悪いなぁ」 わたしがとにかく無茶苦茶に手足を振り回すので二人は扱いかねて顔をしかめている。海くんは一向に動じる風もなくやけに余裕な口調で受け応えた。 「暴れさせとけ。そのうち疲れて力も入らなくなるから。そしたら一気に押さえつけて脱がせてやればいい。とにかく一度やっちゃいさえすればもう諦めて大人しくなるよ」 ひひ、と漫画みたいにわかりやすく下卑た笑いを漏らす男。 「さっすが、やり慣れてる奴は詳しいな。いつもそうやってんのか。道理で手慣れてるわけだ。…なあおい、この子もしかして処女?いいのかな、初めてがこんなんで。ちょい可哀そくない?」 どうやら人間らしい心のほんの欠片くらいは持ち合わせがあるらしい。同情でいいから思いとどまってくれないかな、と一縷の望みを繋いでそいつの顔を哀れっぽく見上げると、傍から海の奴が冷酷に言い放つ。 「大丈夫、気にするな。もうとっくにやられた後だよどうせ。…あいつにやらせたんだろ、お前?いつも目ぇきらきらさせてあの男にくっついていって。好きなように何でもして、って自分から脚開いてみせたんじゃないの、何度も?」 堂前くんのことをほのめかしてる、って思ったら思わず頭がかっとなった。後先考えずきつい言葉が口から迸り出る。 「あの人のこと。…あんたの口から聞きたくなんかない。汚れる」 「自分たちはお綺麗だってことか。でもやらせたのは事実なんだろ。それだけじゃない、豪太にだって。気のある素振り見せて懐かせて、いいように振り回してたじゃん。…あいつにもお情けでやらせたのか。笑っちゃうよな、あの男。ちょっと優しい声でもかけられれば尻尾振り回してどこからでも走ってくんだから。…身体自由にさせてやって手懐けたのか。お前は見かけによらず悪い女だよ」 体力を失ってはいけない、と思いつつもじっとしてたらパニックで頭がおかしくなりそう。夢中でじたばたするわたしに奴はゆっくりと顔を近づけて話しかけた。 「それだけじゃ済まずに浜名にもきっとやらせたんだろうな。あいつは高校の時からの彼女がいるって話だけど。そんなのお前の食欲の前にはひとたまりもないよな。誘惑してつまみ食いさせて、骨抜きにしたんだろ?あいつら全員、お前にたぶらかされて腑抜けになっちゃって…。身体で連中を支配したのか。じゃあこの使い古しの身体、後は俺たちで頂いてもいいはずだよな。俺にも権利はあるわけだし」 「てかカイ。その説だと正直お前だけ相手にされてくなくて笑うけど」 わたしを押さえつけようと頑張ってる男の一人にからかい気味に声をかけられて、海の奴はあからさまにむっとした。 「こいつが勿体ぶった女だってだけだよ。結局はこうやって強引にしてもらいたかったんだろ。焦らして気を引いて、ずっと誘ってたんだよな?本当は男たちにめちゃくちゃにされたかったくせに。…そうじゃなきゃ」 奴が他の二人を押し除けるように覆いかぶさってきた。顔を背けると、無防備な胸を服の上から掴まれた。嫌悪感で思わず顔が歪む。 奴の顔に下卑た笑みが浮かび、途切れた言葉の先を継ぐ。 「そもそも、自分以外男ばっかりのバンドにマッチングアプリでわざわざ応募してくるなんて。…一人で全員の相手する気満々だったんだろ?最初から。俺だってそうだよ、男の中に女が一人、紅一点のバンドなんてさ」 海の奴の行動を見て、別の男もわたしの胸に手を伸ばしてきた。必死で身体を波打たせてそれを避けようとする。奴は無力なわたしを見下ろして満足げに話を続けた。
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