肆 春・淡雪 一

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 俺も夕さんも、ユキとは置かれた場所の異なる存在だった。ユキには一緒に暮らす家族がいるし、美味しいご飯を毎日食べられるし、暖かい部屋にいられる。けれど俺達は……。  叶うのならばユキのように暮らしてみたいとも思う。しかしそれは無理なことだ。理由は至極簡単なことで、俺が俺で、夕さんが夕さんだからだ。黒ばかりではなくて青や黄色を纏ってみれば何か変わるかも? なんて、不可能なことを考えるのはこれくらいにしておこう。  ユキのいなくなった窓辺にしばらく佇んでいると、遠くから何かがコツコツと鳴る音が聞こえた。木を叩く音だろうか。  確認しようと耳を澄ますが、不思議な音はもう聞こえなくなっていた。
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