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拾弐 秋・白露 三
「ふうん、アカゲラとお友達になったんだ?」
窓辺でユキが探るように聞いてきた。
「白露ってやつで、まあちっちゃい男の子だな」
「へえ、あたしとどっちがかわいい?」
変な対抗心を燃やさないでほしい。確かに白露はかわいらしい男の子だが、ユキが警戒するような相手ではない。この女よりもかわいいものには生まれてこの方出会ったことがないのだから。
俺はユキをじっと見つめる。
「ユキよりかわいいやつなんかいねえよ」
「やだ、うれしい」
俺達のやりとりを横で聞いていた夕さんが苦笑した。
「お二人は本当に仲がよろしいのですね。もう私の入る隙間はなさそうですね」
「あたし、夕さんのことも大好きよ。二人とも、外に出られないあたしに会いにきてくれる大切な親友だもの」
「ふふ、ありがとうございますユキさん」
何でも好きになってしまうユキだが、一番は俺なのだ。時々、それを自分に言い聞かせるかのようなことを言っている。先程の「夕さんは親友なのだ」という発言もおそらくそうだ。互いに想っていても生まれる物はない。それでも、俺とユキは互いの一番だ。俺達の複雑な恋愛関係を前に、夕さんは「応援してますよ」と微笑んだ。
若者を見守る老人のような雰囲気を纏っている。本当にこの黒ずくめは不思議な人だ。
談笑を続けていると、部屋のドアが開いてお姉さんが入ってきた。
「今日は黒いのが揃ってるの?」
お姉さんを見て、ユキが嬉しそうに声を上げる。
これから学校へ行くのか、お姉さんは制服姿でリュックに教科書などを詰めている。準備は昨日のうちにしておけよな。
「遅刻するよー!」
ユキ宅のお母さんの声だ。
「日和ぃ、バス来ちゃうよー」
「分かってるってば!」
お姉さん――日和――は、青いセキセイインコの鳥籠を開ける。中から出てきたインコは軽く首を傾げて、「イッテラッシャイ!」と奇声を上げた。
「うんうん、ユキはいい子だね。こうやってもどこか行ったりしないからさ」
「イイコ! イイコ!」
「カゴの外のほうが夕立と時雨と遊びやすいでしょ。……あたし、夕立のこと勘違いしてたんだね。おじいちゃんに色々お話聞いたけど、ユキと遊んでくれてたんだね。襲ってるんだと思っててさ」
「お姉様、ご理解いただけてよかったです」
またも追い払われるのではないかと、若干びくびくしていた夕さんの体から力抜けた。居住まいを正し、改めて日和に挨拶をする。足から頭のてっぺんまで、体の動きに無駄はなく、声を出すまでの口の動きさえ優雅と称していいものだった。
夕さんの動作に見惚れていた日和は、我に返ると俺の方を向いた。
「時雨も最近、毎日来てるってわけじゃないみたいだね。おじいちゃんの負担も減ったんじゃない?」
「そうだといいけど」
「時雨も最初襲ってるのかと思ったけどさ……」
「天然記念物だぞー、大事にしろー」
俺の言葉は届いていないが、「貴重なんだもんね?」と誰かに確認するように日和は言った。
「日和! 遅刻するよ!」
「はあい! じゃ、いい子にしてるんだよ、ユキ」
「イッテラッシャイ!」
リュックを背負って、日和が部屋を出て行く。少しして家を全速力で飛び出すのが見えた。
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