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翌日、行くあてのない俺は再び老人の家を訪れた。俺のことを気に入ったのか、彼は笑顔で出迎えてくれた。そして、今度は山葡萄をくれたのである。
なんていい人なのだろう。
この陽一郎という男は、ひもじいホームレスの前に現れた救世主だ。
冬という厳しい季節でありながら、自然の甘味を堪能できるのは幸せである。果物に誘われて、毎日のように老人の家を訪ね続けた。
結果として俺は老人宅の裏庭でひっそりと野宿を始めることになった。物置と、子供が小さい時に使っていたと思われるブランコがある裏庭だ。
裏庭の塀沿いには満天星躑躅が生えており、これが物置の後ろにも通っている。この物置の裏側が俺の寝床だ。ツツジ達は放任されているらしく枝が伸びきっているが、そのおかげで俺の存在は隠れている。現状老人は俺が暮らしていることには気が付いていない。
人の庭で野宿など、なぜこうなってしまったのかは分からない。ただ、この人に寄生していれば餓死せずに済むのではないかと、俺の馬鹿な脳味噌が馬鹿な判断をしたのだということだけは分かっていた。落ちぶれたなと自分でも思う。地に落ちて、そこからどこまで落ちて行くのだろう。
傷が完全に癒えるまで。それまでだから。と自分に言い聞かせながら、ふらりと現れたように見せかけて今日も老人の元へ向かう。
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