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彼女と過ごす最後の日。
この日は生憎の雨だった。
今日は桜を見に行く予定だったが、この天気では厳しいだろうとドライブをすることにした。
雨の音とラジオをBGMに、特に目的地もなく、ただ雨の中車を走らせていた。
「ねぇ、今なに考えてる?」
「今日はなに食べようかなって。」
「ふふ、私も同じこと考えてたよ」
彼女の急な問いかけに、俺は本心とは違うことを言った。
もちろんお腹が空いていなかったというわけではない。そして彼女も「それ」を見透かしたように笑う。
彼女だって、今食べ物のことを考えてはいなかっただろう。
でもこのやりとりが心地よかった。
もし今、本当のことを口にしてしまえば、俺はたちまち「俺」を演じきれなくなるだろう。
やり場のない気持ちを込めてアクセルをグッと踏み込んだ。
彼女は、明日朝一番の便で旅立ってしまう。
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