第一話 -日常-

1/12
81人が本棚に入れています
本棚に追加
/247ページ

第一話 -日常-

 もはやトンネルに霊がいるというよりは霊がトンネルに詰まっていると言った方が正しい状況だった。 「うっわ…ッ、なんだこりゃッ!!」  草木も眠る、深夜の(アストラル)界。  トンネルの入り口でぎゅうぎゅうに詰まった霊を見上げながら露骨に顔をしかめている黒髪の半神(デミゴッド)の横で、濃い茶髪の大柄の半神(デミゴッド)が苦笑する。 「こりゃまた随分ため込んだなぁ……」  トンネルの入り口を塞ぐようにぎっちりと詰まった霊たちは、怒りで殺気立ちながら二人を威嚇するように蠢いていた。  (アストラル)界とは人間界の裏側のような異世界のことで、霊魂が活動する場所である。表裏一体となる人間界の表側は物理世界と呼ばれており、そちらは物理法則に従った世界なので肉体を持った人間達が普通に生活している。 「マジかよ……。このトンネルって物理世界の方でも確かに心霊スポットだって聞いたことはあったけど……こんなにうじゃうじゃいるなんて聞いてねぇぞ」  威嚇してたまに物を投げたりとびかかってくる霊たちの攻撃をほぼ動かずにかわしながらうんざりした声で呟く。  彼の名はセタンタ。ケルトの太陽神ルーと人間の母の間に生まれた半神(デミゴッド)だ。その昔、アルスターという国でクー・フーリンという名で活躍していた英雄で、死後、神界に上がってからも神界の戦争で大活躍していた。  ……と、言えば聞こえはいいが、実際には彼はやりすぎた。やりすぎていた。ほんの少しでも敵軍に利があると判断すれば非戦闘員だろうが民間人だろうが関係なく殺しまくり、およそ一日に百人のペースで大虐殺を続けていた。  当然、その行為は神界に入っても変わることがなく、神界の戦場で何千年もの間、死ねない屍を大量生産し続けた結果、耐えかねた神界の神々はついに魔界の力を借りて彼を封印しようと動いた。
/247ページ

最初のコメントを投稿しよう!