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「さっきも言ったけど、わざわざ塩田雄介を屋上から落としているから、何か理由があったはずなんだ。自殺や事故への見せかけには少々甘さがあった。だから考え方を変えてみた。犯人たちには、どうしてもあのビルから落とさなければならない理由があったのではないかってね」
「確かに被害者は自殺するようには見えなかったようですし、事故に見せかけようにもビルの安全対策は完璧だった。ましてや、殺人ならもっといい場所やシチュエーションがあったはずです」
改めて事件を考え直すとおかしな点が多々あった。犯人たちの計画のずさんさが浮き彫りになった形だ。だからスピード逮捕に至ったんだろうが。
「そこまでしてあのビルにこだわった理由が……」
「そういうことさ。犯人は浮気された者同士、塩田だけ殺害して、歩美だけ何もしないのは変でしょ?」
「ま、まぁ……」
「そして歩美は同じビルで働いていた。歩美のシフトは夫である武志なら把握していただろうから、彼女が帰る時間は分かっていた。だけどさ、彼女に向かって落とす場合、何か目印でもないと不安かなって思ったんだよね」
「人違いは嫌ですもんね……って結局人違いしてますけど。ああ! だから服装や持ち物のことを聞いていたんですね」
「そう。その日は雨が降っていたって兄さんが言っていたから、傘は大きな目印になるなぁって思ったんだ。時間と目印、それさえ分かれば狙って落とすことも不可能ではないよ。だけど死んだのは別の女性だった。だから傘が同じだったのかなぁって。それで確認してもらったんだよ」
「はぁ……」
僕の口からはもはや変な相づちしか出ない。その推理に唖然、ぼう然である。僕は父さんをチラッと見た。父さんはあまり表情に出るタイプではないが、仏頂面がますます仏頂面になっている。
事務所内に嫌な空気が流れる。犬猿の仲同士が鉢合わせた、そんなピリピリ感とでも言うんだろうか。
父さんはおじさんをしばらく睨んだ後、感情ゼロでこう言い放った。
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