「今日は人間が降るでしょう」

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「……助かった」 「早期解決に役立てて良かったよ」 「…………」  父さんは何も言わず事務所を出ていった。扉を閉める音がやけに大きいのは気のせいだろうか。僕は父さんの背中を複雑な気持ちで見送った。  僕からすればどっちが勝とうが関係ない。事件解決の方がよっぽど大事だ。だけど家族だからなのか、父さんが負けたと思うとちょっぴり悲しくなる。  僕はおじさんの方を振り返った。ご機嫌な彼を僕は呆れた目で見る。 「最後はちょっと嫌味っぽかったですよ」 「うん? あれは嫌味だよ。警察は頭が固いですねって暗に言ったつもり」 「まったく、子供じゃないんだから」  僕は少しぐらいお説教しようと思ったが、おじさんの姿を見て諦めた。おじさんの中では事件は終わったみたいで、すでにもう漫画を読み始めゲラゲラと笑っている。探偵の机には漫画本がうず高く積まれていた。当分仕事をするつもりは無いらしい。  すると僕の耳が雨音を捉えた。そういえば今日は夕方から雨が降ると言っていた。雨足が次第に強まっていく。帰りは傘をさして帰らなければ。  きっと今日の僕は頭上が気になって仕方がないだろう。まさか人間は降ってこないだろうけど、それでも気にせずにはいられない。だって、あんな事件の話を聞いてしまったんだから。  そうやって僕が不安な目で窓の外を見ていると、探偵の能天気な笑い声が聞こえてくる。その馬鹿丸出しの笑い声に僕はイラッとしながら、おじさんの頭の上に、人間は無理だとしても、隕石でも降ってくればいいのにと、心の中でつい思ってしまった。
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