「赤いくちづけ」

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 探偵たちも自殺という意見に傾いているようだった。それでいい、そうなるように仕向けているんだから。二人の会話はまだ続いていた。 「ついでにご近所さんにも話を聞いてきたんでしょ?」 「ええ、言われた通り聞いてきましたよ。伊原さん夫妻は本当に仲の良いご夫婦だったそうです。奥さんの香帆さんは今どき珍しい一歩引いて旦那さんを立てるような女性で。ご主人もご近所さんに必ず挨拶するような人で、悪い話は聞きませんでした」 「まさに理想の夫婦ってとこ?」 「ええ。本当に仲が良くて、いってきますのチューを目撃した人もいます」 「おおぉ、それは羨ましい限りだなぁ」  二人の視線がちらっとこちらに向いたのが分かった。  理想の夫婦、仲の良い夫婦、どれも嘘っぱちで外面だけだったのを誰も気づいていなかったという事か。それほどあの男は周りの目を気にし、良き夫を演じていたのかと思うと反吐が出そうになる。  すると私のそばに誰かが立った気配がした。顔を上げると探偵がそこにいた。 「奥さん、少し家の中を調べたいんですけど……」 「警察が調べているだろ。お前が出る幕じゃない」 「いいじゃないか、減るもんでもないし。奥さん、良いですか? もし心配なら一緒に来てもらっても構いません。そろそろ外の空気も吸いたいんじゃないですか?」  にっこりと笑う探偵。何だろう、急にこの男が危険なように思えてきた。いや、私は何をそんなに恐れているの。私の計画は完璧じゃない。そうだ、大丈夫。私はよろよろと立ち上がり、探偵に笑みを向ける。 「そうですね。ずっとこの部屋にいても不安が募るばかりなので」 「ありがとうございます。では、行きましょう」  私と探偵は自室を出た。二階には亡くなった夫の寝室とパソコンが置いてある書斎、私の寝室と物置になっている部屋の四室がある。探偵は私に尋ねる。 「パソコンは奥さんも使うんですか?」 「はい、たまにですけど」 「そうですか」  私たちは一階に降りる。一階はキッチン、リビングといった一般的な間取りだ。探偵は洗面所を覗きキッチンを覗く。移動しながらも私への質問は欠かせないみたいで。 「ご主人、薬を飲んでいたみたいですけど、何か持病でも?」 「腎臓の方が弱いんです」 「へぇ~」  探偵は和室を見て、リビングに移動する。リビングの壁や床まで凝視している。子供がいないわりに傷の多い壁と床。  なんだろう、この感覚は。じわじわと首を絞められているような……。思わず手が自分の首元に行く。しっとりとした汗が手に付いただけだった。
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