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その高家さんはというと確かに変わっていた。おじさんの同級生ならば歳も二十八ぐらい、その割には落ち着きの無い格好だった。髪は立派なゴールドヘアーで黒の革ジャン、暴走族でもこんな格好はしないという派手さである。いったい何をしている人なんだろう。
戸惑いが顔に出ないように、失礼が無いようにと意識してはいたが、おじさんにはだだ漏れだったようで、
「怪しいだろ? 僕もそう思うよ。こんななりでも大会社の次男坊なんだよ。だから悠々自適な暮らしで、趣味のバンド活動に精を出している。まぁいわゆるバカ息子という訳さ。何で社長はこんなバカの生活費を出してやるんだろうか」
「バカ息子、バカ息子って連発するな!」
「だったら生活費ぐらい自分で稼げ。僕を見てみろ。金が無いからこんなオンボロビルに住んで貧乏生活だ。自分の稼ぎ相応の生活をしている。それ比べてお前は高級タワーマンションの上層階じゃないか。だからバカ息子なんだ」
「うるさい。これでも最近は働いてるんだ!」
「馬鹿を抜かせ。お前が働くなんてありえない」
「おいおい、俺を何だと思ってるんだ」
「ボンボンのバカ息子だろ」
「なにぃ!」
なんだろう、子供のケンカのように聞こえてきた。低レベルの言い合いは聞いている方もうんざりしてくるので、僕は軌道修正を試みる。というか、そもそも相談があると言ってなかったか?
「あの~高家さん、何かご相談があるのでは?」
「ああ、そうだった。こんなバカな言い合いをしてる場合じゃなかった。でも無関係じゃないんだな。相談というのはその働いているというか、今しているバイトのことなんだ」
「バイトですか?」
「そう。不思議なバイトでね。居酒屋で知り合った人に紹介してもらったというか教えてもらったんだけど」
「どんなバイトなんです?」
「それがね、話せば長くなるんだけど……」
「とりあえず聞いてやるから、話してみてよ」
おじさんはそう言って身を乗り出してきた。どうやら彼の気を引いたようだ。先ほどまでヒマで死ぬと言っていたのだ、ヒマつぶしにはなると判断したのかもしれない。
「そうか、じゃあ。えっと行きつけの居酒屋である青年と親しくなった。ジョンというハーフの青年なんだけど、話が面白く良い奴なんだ。その彼がある求人というか、新聞の切り抜きを持ってきたんだ」
そう言うと高家さんは内ポケットから紙きれを一枚取り出し、テーブルの上に置いた。僕たちはそれを覗きこむ。文面はこんな感じだ。
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