「ピストルは再度鳴る」

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 こうも叔父さんが自発的に動くのを見ると、僕は嫌な予感を抱かずにはいられない。基本彼はぐうたらなのだ。そしてこういうときに限って事件が起きたりする。  いやいやと僕はかぶりを振る。こんな所で事件なんか起きるはずが無い。  僕は嫌な想像を振り払いながら選手控室へと向かっていった。その道中、叔父さんが僕に尋ねてくる。 「貴之くんの先輩ってどういう人?」 「先輩の名は村本大輝。僕の一個上です。中距離選手で得意なのは千五百メートル。同じ大学の陸上部にも中距離の選手はいますが、先輩がダントツですね。他の大学の選手と比べても実力のある選手だと思います」 「ふ~ん、優秀なんだ」 「はい」  話しているうちに関係者エリアに辿り着いた。今回は大きな大会ではないのでセキュリティーはそれほど厳しくなかった。僕たちは大学関係者に話を通し、入ることを許される。  先輩は中で軽いストレッチをしていて、僕たちの姿を見ると、中断して駆け寄って来てくれた。 「貴之じゃん、見に来てくれたのか?」 「はい。先輩、調子はどうです?」 「良いほうだよ。えっと、そちらの方は?」 「僕の叔父さんで……」 「ああ、例の探偵をしている。話は貴之くんから聞いてますよ」 「どうせろくでもないことを聞いてるんだろうね」 「いやいや、そんな」  叔父さんは挨拶もそこそこに室内を観察し始めた。  控室は大きく、大学関係なくいろんな人が使っているそうだ。今も数人の選手や関係者が室内にいるし、出たり入ったりと行き来も多い。壁際にはロッカーがあり、反対側の壁際には机が並び、飲み物やバナナにお菓子などが置かれていた。こういう部屋があと二、三個あるそうだ。  ある程度見終わり満足したのか、叔父さんは先輩に話しかける。 「きみもルーティンあるの?」 「えっ?」  いきなりの質問に困惑する先輩。話の流れからなら分かるが、いきなりその質問はないだろう。僕は慌てて叔父さんのフォローをする、というか、なぜ僕がしなければならないのか。 「さっきまで、スポーツ選手のルーティンについて話してたんですよ」 「ああ、それで。ありますよ、ルーティン」 「例えば?」
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