「ピストルは再度鳴る」

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「もしかして、僕に飲めって言ってます?」 「村本くんの水筒だよ。中身はスポーツドリンクだった。本当は水筒に入れちゃダメなんだけどね」 「中身のことは聞いてません!」 「貴之くん、もしも腹痛が人為的なものだったら、下剤的なものを飲ませないといけないじゃないか。そうなると最初に思いつくのは、これだよね?」 「いやいや、叔父さんが飲めばいいじゃないですか。なんで僕が」 「こういうのは助手の仕事だよ。たぶん即効性だろうから、飲めばすぐわかると思うんだよ」 (人・体・実・験!)  僕は水筒をじっと見つめた。だけど決心がつかないのでもう少し抵抗を試みる。 「分かりました、言い方を変えましょう。甥っ子に危険なものを飲ます叔父さんがどこにいるんですか?」 「……ここにいるけど」  だめだ、こりゃ。僕は天を仰ぎ、そして水筒に目を移す。僕は覚悟を決め、水筒から一口飲んだ。後々のことを考え舐める程度にはしておく。 「よし、しばらく様子見だね」 「叔父さん……」  悪気もなければ、感謝もない。このとき本気で貧乏探偵の助手を辞めたくなった。  しばらく僕たちは控室のベンチに座り時間を潰した。だがいくら待っても、僕に何の変化も起こらなかった。腹痛の気配もない。むしろ小腹がすいてラーメンが食べたい気分だ。 「水筒じゃないのかぁ」 「じゃあ、バナナですか? でもあれ、他の人も食べてましたよね? それなのに腹痛を起こしたのは先輩だけ。下剤入りバナナを先輩にだけ食べさす? そんなの不可能じゃないですか」 「いいや、不可能かどうかは考えてみないことには分からないさ」 「その口ぶり、叔父さんはどうやったか分かってるんですか?」 「まぁ一つだけね。でも、確実じゃないんだよなぁ」 「どんな方法なんです?」  首をかしげる僕に貧乏探偵は得意げに話し始めた。 「ジャストロー錯視って知ってる?」 「いいえ」 「同じ大きさの二つの扇型をね、上下に並べると、なぜか上にある方が大きく見えるっていう錯覚なんだけど、バナナでも同じ現象が起きるんだよね」 「それがどうしたんです?」 「ルーティンだよ。村本くんは競技前にバナナを食べるって言ってよね?」 「だから今回も僕たちの前で食べてました」 「バナナを取りに行ったとき、彼、並べられていたバナナをじっと見つめていただろ?」 「ああ、数秒見つめてから、バナナを取りましたね。あれってもしかして、選んでた?」
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