「声なきメッセージ」

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「ここは太田さんの部屋の真下の部屋!」  僕がそう言うと叔父さんは満足そうにうなずいた。 「そう、その通り。あのダイイングメッセージはIでもVでもない。あれは矢印、下を指し示す矢印だったのさ」 「だから壁に書く必要があった。平面ではなく立体的に考えなければならなかったんだ」 「犯人は下の階の住民。このマンションは住人の年齢が比較的同じだから、顔見知りで交流があってもおかしくはない。そうだよね、明人くん?」 「は、はい。確かに太田さんと言葉を交わしているのは見たことがあります。親しいわけではないだろうけど、顔見知りには違いないと」  明人の証言で貧乏探偵の推理に更なる信用性が増す。そして探偵は住人犯人説をさらに裏付ける。 「そしてもう一つ、犯人は太田くんを刺した後、凶器を持って逃げている。刺した後抜いているから返り血も浴びているかもしれない。それなのにマンション近辺で怪しい人物の目撃証言が出てこない。でも犯人がこのマンションの住人だったら? だって犯人は外には出ていないんだからね」  叔父さんはそう言い終わると服部刑事を見た。服部さんはぐうの音も言えないのか、ただ黙って難しい顔を浮かべている。きっと今は叔父さんの推理のあらを探しているんだろう。だけど思いつかないみたいで、 「全てつじつまの合った推理ですね。反論のしようがない。ですが……」 「物的証拠が無いというんでしょう? ですが犯人は凶器を自宅に持ち帰っていますからねぇ」  にっこり笑うおじさんに服部刑事は苦虫を潰したかのような顔になる。事件発生からそれほど時間は経っていないので、凶器は処分されていない可能性が十分にあった。 「動機は何なんでしょう?」と僕。 「動機ねぇ……明人くん、ここの住人はどういう人か知ってるかい?」 「えっと、確か大学三年か四年の人だったと」 「そうか。じゃあ、出てきたら分かるかもね」  そう言うと叔父さんは部屋のチャイムを押した。そのいきなりの行動に服部刑事が慌てたのは言うまでもない。しかし一回では出てこないみたいなので、叔父さんは何度も呼び鈴を押すとようやくそのドアが開いた。 「何か?」  出てきたのは背の高い男性だった。不健康そうに青白い顔をして、見るからに疲れている。首にはヘッドホンが掛けられていた。迷惑そうに顔をしかめる彼に叔父さんはなぜか明るい口調でこう告げた。 「きみが上の階の太田くんを殺した犯人だね?」 「えっ、な、なにを」
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