「声なきメッセージ」

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「動機は……ああ、音か。きみの部屋静かだねぇ。ヘッドホンも音が聞こえないから耳栓代わりなのかな?」 「あんた一体何なんだ!」 「神経質な性格なのか、大学の勉強に追われているのか……。太田くんはいつもうるさいみたいだから。隣室の子も言ってたよ。バンドやっていてその仲間が来たり、ギターの練習したり。さぞきみの部屋では足音が響いただろうねぇ」 「なっ、あっ、あ……」  明るく楽しそうに犯人を追い詰めていく探偵。彼の動揺具合から犯人なのは間違いないだろう。  そんな二人のやり取りを隠れて見ていた服部刑事が動いた。探偵の横からグイッと体を出し、住人の男性を睨む。そして懐から警察手帳を取り出し見せた。 「上の階で殺人事件があった。きみにも少し話を聞きたい。あと、部屋の中も確認させてもらえるかな?」  それがチェックメイトだった。住人の男性はがっくりと肩を落としか細い声ではいと答えたのだった。  その後男性の部屋が調べられ、殺害に使われたと思われる包丁が発見された。そして動機は叔父さんの指摘通り、騒音だった。彼は論文作成の真っただ中で、上の階から響く足音に悩まされていたそうだ。そしてとうとう我慢できなくなった彼は太田さんを殺害するに至った。  騒音などの隣人トラブルが事件に発展することは増えているそうだ。近隣住民との交流の減少が大きな理由かもしれないが、不寛容な世の中や貧富の差、生きづらい世の中などの社会的要因も少なからずあるだろう。どちらにしろ、悲しいとしか言いようがない。  こうして叔父さんのおかげで事件はスピード解決した。  全てが終わった今、僕たちは明人の部屋で休んでいた。  なんだかんだで日付が変わろうとしている。考えれば三時間程度のことなのに、濃密な時間は僕の身と心を疲れさせるのには十分だった。  その一方で元気なのは叔父さんと明人だ。明人は非日常の体験に興奮しているのだろう。 「本当に凄かったです!」 「いやぁ~それほどでもないよ~」  明人にべた褒めされ、まんざらでもない叔父さん。顔がにやけている。 「貴之の話だと本当にどうしようもない人みたいに聞いてたから。いや、マジで凄いです」 「いやいや~」 「俺、叔父さんのファンになりました!」 「ファン? そんなぁ~芸能人じゃないんだから~」  事件で疲れているというのに盛り上がる二人。過去の事件の話など披露したりして、ますます二人のボルテージは上がる。  僕は両手で耳をふさぎながら、この騒音に顔をしかめる。  あぁ、うるさいのはやっぱり迷惑だ。そしてとうとう我慢できなくなり、 「もう、二人ともうるさい!」  叔父さんと明人はしゅんと反省の色を見せるのだった。
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