二人の三角関係

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 話をするといっても日常で起こったできごとをなんでもないように話して、たまに一緒に映画を観たりして過ごした。アケミは長くて三時間短くて三十分で人格がかえられ話している途中の顔つきの違いで私はどちらのアケミか判断することができた。  内容がまだ途中でも表のアケミは簡単に私の前から姿をかくし、そして淡々としたアケミの表情は細かな氷のとげとなって私の目に刺さった。  その日もリビングにあるソファで話していたアケミと私だったが、ちょうど見ていたテレビがコマーシャルになったところで人格が変わった。  「今日はテレビを観ていたのね。ねぇ、どうしてアケミが表にいるときにしないの?」  隣に座って私の肩によりそっていたアケミだったが人格が変わったことによって姿勢を正し、腕を組んでテレビをにらみつけていた。  私はアケミが言っていることを理解できずのんきに脱毛のコマーシャルを見つめてながら聞く。  「しないって、何を?」  すると返事の代わりに大きなため息が返ってきた。どうしてそんな態度をとるのだろうと考えていたが、もともと見てたバラエティ番組になってからその言葉の意味を察して顔が熱くなる。  「馬鹿ね、何赤くなってんのよ。私の時は普通なのに」  学生の時とまったく同じではないがまだ私にも欲はあった。それはアケミも同じで結婚する前も結婚してからも定期的に夫婦生活はある。  姿は同じ。人格は違う。それはわかっているのに腕の中にいるときのアケミはどちらでもおかしくない振る舞いをしていた。  それは表の人格でも裏の人格でも大差ないということだ。私が初めてアケミを抱いたときと今のアケミは殆ど違わない。それもまた不思議だった。  それなのに私は元のアケミとはもう学生の時以来関係を持てないでいた。それがどうしてなのかわからない。体は同じでも人格が違えば別人だ。しかしそれはさっき自分が言ったことと矛盾する。  どちらもアケミに変わりはないのではないかと思いながらも、元のアケミと関係をもつことに抵抗を感じた。  抵抗。抵抗というとアケミを拒否しているようにも聞こえる。だが決してそのようなことではない。  私が黙っているとしびれを切らしたアケミは立ち上がって大きなため息をついた。  「あんたもしかして本来の私を忘れかけているんじゃない?アケミのことを抱けないなんてかなり問題ね」  「まさか。僕は」  そこまで言って言葉が出てこなかった。  「ほら、なんにも言葉が出てこない。これじゃぁ、アケミもさすがに傷つくわよ」  アケミは去ろうとしたが足を止めて振り返った。正面から私を見つめ少し心配している表情をした。優しさも含んだその顔は抱きしめたい衝動を一気に起こす。  だがここで抱きしめるとその後の自分の理性を保てる自信がなかった。ぐっと力を入れて座ったままアケミを見つめる。  「あなたは結局元のアケミと私とどっちが好きなの。私たち二人を背負っていくことがあなたに、本当にできるの」  恐れていた、どこかで待っていたその質問に私は答えることができなかった。氷のように石のように固まったまま動くことができなかった。  「もう限界がきているのかもね、私たち。うまく生活してきたけど結局こんなあやふやな関係しか築けていない。子供もいないしっていうか私はつくるきはないんだけど、あなたは欲しいんでしょ」  「いや、僕は」  子供のことを考えたことはなかった。それよりもアケミとの関係を安定させることが何よりも重要だと思っていた。
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