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この思いは確固としたものなのにどうしてかまた言葉が続かない。それはアケミを目の前にして怖気づいているからだろうか。自分の妻だというのにどうして怖がる必要がある。
私はアケミのことが好きなのに。
「答えられないじゃない。やっぱり普通の生活が恋しいんでしょ。こんなの異常だもの、やっぱり。二重人格の妻。それも元の人格は常に現れない。本来存在しない人格なんていついなくなるかわからないし、それに気持ちの悪い存在だって気が付いたんでしょ」
「違う!」
反射的に叫んだ。
「違わないでしょ。ただの性欲のはけ口になればいいって思ってるのよ。あんたは。私は元のアケミが戻るまでのつなぎなんでしょ。だったらもうこんな茶番はやめるべきよ」
アケミがそう言い切ったところで私はアケミに駆け寄って抱きしめた。その後のことを全く考えることはできなかった。
ここまで追い詰めてしまったのは自分の責任だ。自分の態度がはっきりしないからアケミの気持ちを守ることができなかったのだ。
私の腕の中のアケミは小さく、細いその肩を抱いていると体の芯が熱くなる。こんな時なのに腕の中で抵抗する彼女を抱きたくて仕方がない。
激しい欲に支配されないようにしたが気が付いたときにはアケミと唇を重ねていた。
キスをされて驚いたアケミだったが私から離れようと抵抗し必死に唇を話そうとした。
暴れているせいで唇に痛みを感じ、すぐに鉄の味もした。その痛みと不快な味の中ですら唇の感触を探す。
不安におびえ壊れそうな感情が伝わってくる。不安を取り除きたい思いと自分の欲の波が交互にくる。アケミが嫌がっているのだからやめなければならない。それなのにやめることができない。今手放すとアケミは自分の前からいなくなってしまう。そんな予感がした。
細い方を抱く手に力がよりこもると頬に強い衝撃を受ける。殴られたのだとすぐに分かった。
口の端に血が滲むのがわかる。
「やめてよ!」
アケミは一歩引いて怒鳴りつける。その声はきっと外まで響いていただろう。
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