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少し緊張した気持ちで寝室へ行くとアケミはすでにベッドに座っていた。服は脱いでいるようで胸元まで布団を引き寄せている。
静かに視線を合わせたまま近づいて「えっと、いいのかな」と私は下着姿で間抜けなことを聞く。口にしたとたんとても情けない男になった気分だ。
アケミは私を見上げて「今更それを聞くの?」と笑った。その笑顔は大学生の時と同じものでそれを合図に私はそこでベッドに乗り、そしてアケミを抱きしめた。
少し乱暴な手つきだったのでアケミは少し驚いていたが私はかまわずに抱きしめたまま「アケミ、なんだろ」と聞いた。
「え?なに言っているの」その声は明らかにはぐらかそうとしているもので、動揺していることがすぐに分かった。
体を離してアケミを見つめる。驚いた表情と今ははだけてしまっている布団からのぞく白い乳房はアンバランスだ。表情の純粋さと裸体の色気はこんなにも合わないものなのかと頭の隅で思った。
「アケミなんだろ。君は。元の。僕が初めて出会ったときのアケミなんだろう」
そう告げるとさらにアケミは表情をこわばらせて「そ、なに」言っているの、と言いたいのだろうがそれは全く言葉になっていなかった。
そこで私は確信する。今自分の目の前にいるアケミは私と初めて出会った時のアケミなのだ、と。本当のアケミが今目の前にいるのだと、この興奮は抑えることがやっとだ。
アケミは布団を引き寄せて体を隠しそして「いつ気が付いたの」と観念した声で聞いてきた。勝気な様子は見てとれずか弱そうな女性がそこにいるだけ。久しぶりに感じるアケミの雰囲気に私は質問に答えることはせずにアケミの肩をつかんだ。ほっそりとした温かみが触れる。
「どうして今ここにでてきたんだ。もとのアケミは?どうして今までどこかに行っていたんだ。一体何をしていたんだ。僕は本当に死にそうだった」
質問攻めにしまってアケミが悲しそうな表情をしていることもかまわずに「死にそうだった」とチープな言葉を放っていしまった。だが実際にそうだった。大人ならそんなことをわざわざ言うべきではないのだろうが、抑えることができなかったのは柄にもなく気持ちがあらぶっていたのだろう。
「ごめんなさい。あなたを困らせるってわかっていたけどどうしても。どうしても私はこのままはいけないと思ったから」
気弱な声でアケミは言う。顔を伏せて目元を指で拭っている。
私は座りなおして「ごめん、驚かせて」と謝り「だけど理由をきちんと教えてほしい」と懇願するように言った。
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