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高校生になると、周りの人が他者の域を超えることは無くなってしまった。 わざわざ誰かに"1人が好き"とか伝えなくても、環境は自然に整備されていた。僕は今日も境界の中で生活し、彼らもまたそうだった。 帰り道、バスの中から、錆び付いたガードレールを目にした。茶色が4割ぐらい占めており、正直汚い。 何とかしろよと、軽く呆れた。そして突然、どうにもならない思い出が甦ってきた。 小学校5、6年生の頃、気になっている子がいた。 2つ学年が下で、背が高く、少し褐色っぽい肌だった。運動が得意で、クラスのまとめ役だった。 僕は児童会の副会長を務めていたし、友達もたくさんいた。1、2年生の子達でさえ、昼休みには一緒に遊んでいた。だから、他の学年の事情を知っていたところで、何も問題なかった。 でも、彼女と直接話すことはほとんど無かった。強いて言えば、運動会で同じ色だった時にちょっとあったぐらいか。 やはり周りの目が気になるし、アプローチをかけるのは純粋に恥ずかしかった。ずっと片想いでもいい。そんな気もしていた。 下校の時だった。その時は集団下校で、上級生が下級生を引率する形で帰っていた。 道の途中には、大きな川と道の間にボロボロのガードレールがあって、幼い子達はよく枝とか石とかで叩いていた。あの子や高学年の人達はいつも注意するのだが、やめることはなかった。 その日、いつも通りガードレールの横を歩いていると、後ろから声がした。 「こわれた!」 どうやら、叩かれ続けたガードレールについに穴が空いたようだった。 低学年の子達は大興奮。他にも一部の男子が少し笑っていた。 ここは上級生として、児童会副会長として、しっかり注意しなければならない。僕は道に出て、声を発そうとした。 「避けて!」 彼女の声が聞こえた瞬間、僕の体は浮き上がった。 たまたまガードレールに、肩からぶつかったので大怪我は免れた。もし首とかを打ったり、乗り越えて川までいったりしていたらどうなっていただろうか。 だが、これで集団下校はなくなり、前みたいに他の学年の人達と遊ぶことも無くなった。 その時から、僕の環境は次第に変わっていった。 親しみを込めて話しかけてきた友達は、みんな気遣いによるものになった。自由に遊ばせてくれた先生や親は、僕を守るための線引きをし始めた。 生き残ったのに、僕は死んでいた。 何ヶ月かして、僕らの卒業式になった。後ろがやたらと間をとる中、僕はゆっくり入場した。 彼女が見えた。 彼女はこちらをちょっとだけ見ると、すぐに僕の後ろに視線を向けた。 それに遅れて、僕も背けた。 事故のことがあってか、式中に他人から僕に向けられる視線は強く感じた。何処を向いても視線が合っただろう。 でも、僕は彼女の方を見なかった。というか、見ることが出来なかった。 結局、あの叫び声以来、彼女の声を聞くことは無い。 バスを降りると、反対車線上に「工事中」の文字があった。 こちらは改修作業でもしてるのかと思いきや、むしろ道を拡張する工事をしているようだった。 あの道も拡張すれば、一瞬そう考えたが、やめた。1度取り付けたガードレールは、なかなか消えてくれないのだから。
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