汚い手紙

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 喉の奥が苦くてチクチクする。さっきのスープだろうかそう思って僕は洗面台に向かう、喉の奥に指を刺して嘔吐する。洗面台を洗い終わっても喉の奥に苦味が残る、心にも。  あの時恋したのは積乱雲が天高く登る時期だった。積乱雲はどこかで見えない壁に捕まってその壁を這う様に横に伸びて、ぷっくり割れて太陽の光を浴びて真っ赤に染まった雲の層になったのを今でも覚えている。早く帰れと諭す色に染まっていた。僕の隣でホワイトレモン種の太ったビーグルがヨダレを垂らして息を切らしていたのを覚えている。玉の様な汗が目に入ったのを。そして首を振っていた扇風機はその時から2年前のことで、その時はエアコンが僕の喉を枯らしていたのを覚えている。初夏だった。けどあの子との思い出は覚え出せない。  口の中が苦い、みかんを口の中に放り込んで強引に甘くした。  今でも僕は愛が嫌いだ。
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