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「葵咲、料理は修太郎さんたちのおすすめにしない? で、とりあえず飲み物だけ頼んじゃおうよ」
僕たちのことなんて眼中にないみたいに2人ではしゃぐ女性陣を見て、僕はそう提案してみた。
「うん。私もそれがいいかなって思ってた」
淡く微笑んでそう答えてくれる葵咲ちゃんに、「飲み物は決まった?」と問えば、「ひおちゃんとお揃いのピーチフィズにしようかなって思ってる」と、何とも女の子らしいチョイス。
「分かった。じゃあ料理と一緒に適当にオーダー通しちゃうね」
言ったら「ありがとう」ってニコッと笑ってくれて。
久々に心から笑顔をむけてくれた気がして、僕はキュンとする。
かぐや姫と話している葵咲ちゃんは、さっきまで僕とふたりきりでいた時に漂わせていたような憂いを感じさせなくてホッとする。
だからせめて今だけは――。
ホテルに帰るまでの間ぐらいは……葵咲ちゃんが笑顔でいられたらいい。
僕はそんな風に思ったんだ。
適当に修太郎氏におすすめ料理を見繕ってもらって、葵咲ちゃんのピーチフィズと一緒に、僕の生ビールも付け加えてオーダーする。
塚田夫妻のグラスにはまだたっぷり中身が残っていたので、とりあえず今回はそれだけ。
「修太郎さん、どうやら女性陣は女子会モードのようですし、僕らは僕らで色々話しませんか?」
席は同席だけれど、彼女たちの笑い声を聞きながら、こっちはこっちで男同士の話をするのも悪くない。
真咲と飲んだ時と違って、今はすぐそばに葵咲ちゃんがいるのだから……僕だってさすがに、そんなには不安にならないし。
「奇遇ですね。僕も池本さんと話してみたいと思っていました」
眼鏡の奥で、修太郎氏が瞳を細めたのが分かった。
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