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塚田夫妻の待つ居酒屋までの道のりを、葵咲ちゃんと並んで歩く。
話をしないわけでも、前後に分かれて歩いているわけでもないんだけど、僕らの間には明確に一線が引かれていて――。
僕は葵咲ちゃんと手を繋ぐことすらできないでいる。
「あの……さ、葵咲」
僕の横を歩く彼女に、恐る恐る声をかける。
「僕のこと……」
嫌いになった?
ふとそんな言葉が口をついて出そうになって……そんなことを聞いたら、返答によっては再起不能になると思って口を閉ざす。
「理人のことは……今でも変わらず大好きだよ。――っていうより……寧ろ好きになり過ぎてるから……普通は気にしなくていいようなことでモヤモヤして困ってるの」
でも、葵咲ちゃんは僕が言わんとしていることを汲んでくれたらしい。
僕が言い淀んだ言葉の先を拾うみたいに、そう答えてくれた。
――大好きだよ。
葵咲ちゃんのその言葉が、凍りかけていた僕の心をじんわりと温めてくれる。
でも、好きになり過ぎて困っている、と続けられたのは看過出来ないな。
「僕、葵咲ちゃんを不安にさせるようなこと、何かした?」
キミを悲しくさせるようなことは、何ひとつしていないはずだよ?
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