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心の中ではそう確信しているのに、目の前にいる葵咲ちゃんの様子を見ていたら無性に不安になって、その自信は急速にしぼんで言葉に出来なかった。
質問を投げかけて、ざわつく心のままに横を歩く葵咲ちゃんをじっと見つめる。
白地にレトロな小花柄を散らせたワンピースを着た葵咲ちゃんは、夜のお出かけだからかな。肩を冷やさないためか、淡いラベンダー色のカーディガンを羽織っていた。
食事をすることを想定しているからか、髪の毛はポニーテールにしてひとつに束ねてあって、ワンピースと似た色の花柄のシュシュが飾られていた。
言うまでもなく今日の葵咲ちゃんも、すごくすごく可愛いし、彼女が動くたびにふぅわりと甘い香りが漂ってくるのも、いつも通りに堪らなく愛おしい。
それなのに……。僕はそんな愛らしい葵咲ちゃんの手を握ることも出来ないんだ。
なんだろう、この圧倒的な拒絶感。
「多分ね、理人は何ひとつ悪くないの」
僕の方へはあえて視線を向けないままに、葵咲ちゃんがポツンとつぶやいた。
僕は悪くないと言いながらも、きっと僕のせいで彼女は苦しんでいる。
詳細は分からなくても、それだけは分かる。
「でも――」
なおも言葉を続けようとした僕の唇へ、不意に横から伸びてきた葵咲ちゃんの人差し指が当てがわれた。
「――ストップ。この話は帰ってからじっくりするって約束したでしょう?」
思わず立ち止まってしまった僕を、下から見上げてきた葵咲ちゃんが、「ね?」と言いながら念押ししてくる。
僕は「分かった」と引き下がるしかなかった。
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