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「――過保護でお恥ずかしい」
よくそう評されているんだろう。言い訳めいたことを言う修太郎氏に、僕は親近感を覚える。
「いや、僕も似たようなものなのでお気持ち、お察しします」
そこまで言ってから、
「奥様のこと、さん付けの時と呼び捨ての時があるのって……意図的に使い分けておられます?」
キャーキャー言いながら2人でメインメニューを見合っている女性陣に聞こえないよう手にした期間限定メニューで衝立を作って、小声で問いかけてみた。
修太郎氏は僕のセリフに驚いたように瞳を見開くと、「わ、わかりますか?」とつぶやいた。
僕はその言葉にニヤリとする。
「実はちょっとうらやましいな、って思ってました。僕なんて心の中ではずっと彼女のこと、ちゃん付けなんですけど……声に出す時は虚勢はって呼び捨てにしています」
こんなこと、今まで誰にも――それこそ葵咲ちゃん本人にだって――言ったことない。
でも、修太郎氏になら話しても理解してもらえるかな?とか思ってしまって。
葵咲ちゃんとの間に小さな溝が出来ているからだろうか。
僕は日頃なら絶対に葵咲ちゃんにベッタリだろうに、珍しく眼前の彼と話してみたくなった。
僕と似ている気がする修太郎氏だけど、きっと葵咲ちゃんはかぐや姫と話していて、修太郎氏の中に、僕とは違う何かを見出したんだ。
修太郎氏と話せば、葵咲ちゃんが抱えている悩みの糸口が見えるかもしれない。
そう思ったりもして。
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