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どうやら彼、自分の奥さんに見とれてしまっていたらしい。
「あ、ええ、もちろん。日織さんと丸山さんのお2人でどうぞ。僕と池本さんは酒の肴があれば大丈夫ですので。――ご飯もの、足りないようでしたら遠慮なく追加で頼まれてください」
言いながら、自然な流れのように横へ座るかぐや姫の頭をそっと撫でる修太郎氏を見て、僕は瞳を細めた。
なんだよ今の。滅茶苦茶うらやましいんだけど。
まぁ、分からなくはないさ。
好きな子って何しても可愛く見えるもんだからね。
僕だって葵咲ちゃんに「食べても良かった?」って上目遣いでお窺いを立てるようにソワソワ聞かれたりしたら、ノックアウトだよ。
っていうより、「僕もキミを食べていい?」って即座に聞き返したくなる案件だ。
そこまで考えて「あ」と思う。
修太郎氏も絶対あれだな。早くお開きにして、彼女と2人きりになりたいとか思ってるはずだ。
「修太郎さんっ、みっ、みなさんの前で恥ずかしいのですっ」
無意識に撫でててしまったんだろう。
「ああ、ごめんなさい。あんまり貴女が可愛かったものですからつい……」
頬を染めたかぐや姫にそう抗議されて、自分の手を見つめて苦笑している修太郎氏を見て、僕は物凄く共感を覚える。
そこでふと自分の横に座る葵咲ちゃんを見たら、彼女も僕の方を見つめていて。
(ね、葵咲ちゃん。もしかして今のふたりのやり取り、うらやましいとか思ってくれてる?)
「葵咲……」
そんな思いを交錯させながら呼びかけたら、慌てたようにふいっと視線をそらされてしまった。
僕はそれだけで胸がギュッと苦しくなる。
葵咲ちゃん。
僕は今すぐにでもそこにあるキミの小さな手を取って、ホテルへ連れ戻してしまいたいよ。
キミは、違うの?
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