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僕らの横で、女性陣2人が本当に楽しそうに自分たちだけの世界に入り込んでいる。
別に無視されているわけではないくせに、すぐそばにいるはずの葵咲ちゃんがすごく遠い存在に思えて、我知らず溜め息が出る。
「――池本さん?」
と、案外気配り上手なのか、修太郎氏が心配そうな顔を僕に向けてきた。
うわー、なんか恥ずかしいんだけど。
「あー、すみません。ちょっと寂しくなりまして」
それでも包み隠さず正直な気持ちをこぼしながら、チラッと視線だけで女性陣に対するセリフですよ、とにおわせると、修太郎氏が「ああ」とうなずいた。
「池本さんは今日が初見かもしれないですが、僕は昨日からこの様子を見せつけられているので」
そこで先に注文済みだったビールをグイッとあおってから僕に淡い笑みを向ける。
「あー、それは。……心中お察しします」
2人でハァーッと溜め息を吐いてから、何だかおかしくなってしまった。
「僕も結構彼女中心生活で周りから奇異な目で見られるんですけど……修太郎さんも奥さんに相当なのめり込みようですよね?」
言いながらククッと笑いがこみ上げて来て、手にしたグラスが揺れる。
まだ殆ど中身を飲んでいなかったそれは揺れると存外波立って。
こぼれてはまずいのでグイッと半分ぐらい飲み干してから修太郎氏を見やると、困ったように眉根を寄せられた。
「お恥ずかしい話なんですけどね、僕が日織と初めて出会ったとき、彼女はまだほんの幼子だったんです」
遠い目をして修太郎氏が語るのへ、「あの……おふたりの年齢差はおいくつですか?」と聞かずにはいられない。
「13ほど離れてます。初見のとき、彼女は4つで……僕は17でした」
今でこそちゃんと夫婦に見えるけれど、こうして聞いてみると、確かに13歳差というのはかなりの開きなんだな、と思ってしまった。
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