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「では彼を浄化の為に神域の奥に連れて行く。君達はしばらく此処にいなさい」
龍神はそう言い残し去っていく。龍神の足音が遠退くと、夕霧は嗚咽を溢して泣き崩れた。そんな夕霧を抱き締める。もう一人きりになどさせない。ずっと傍にいると誓いを立てて。
夕霧が泣きつかれて眠ってしまったので、次の日になってからこれからのことを話し合うことにした。龍神の住まう神域の外に出てみると、まだ肌寒い夜である。朝日がよく見える場所に腰を下ろし、竹筒に詰めた熱い甘酒を寄り添って飲みながら話すことにした。
「夕霧……これからどうするか決まっているか?」
「どうせ武士の子としての僕は死んだとされているし、元々叔父上は僕を養子にすることで陰陽寮に入れようとしてたから陰陽寮で働いてみようと思う」
「いいのか。お前は。仇と同じ仕事など」
夕霧は目を細めて微笑んだ。
「同じ仕事だからだよ。叔父上は僕の力を悪用しようとしてたけど、僕は自分の意思で母上から受け継いだ力を使いたい。それが叔父上への仕返しになるだろうし。銀雪、ついてきてくれるかな……?」
「当たり前じゃないか」
夕霧の肩に腕を回して引き寄せる。
「だから氷雨のように置いていくことなどするなよ。そんなことをしようものなら許さないからな」
「うん……ありがとう……」
少しずつ空が白んできている。もうすぐ夜明けとなるだろう。
「そういえば元服してからの名前は決まってないよな」
「そうだけど……決めてあったの?」
首を傾げる様子は幼い頃と変わりなくて思わず顔が綻んでしまいそうになる。
「ならば教えようお前の名前は……」
耳元で囁く。夕霧の元服の折に付けるつもりだった、氷雨が俺に受け渡した名前を。
「うん……すごく良い名だね。銀雪ありがとう」
夕霧は屈託の無い顔で笑うと、氷雨の死で凍りついていた心の一部が雪解けしたような気がした。
「だろ?氷雨から聞いたとき、俺もお前のその名前を気に入ったからな」
互いに笑い合っている内に夜が明ける。朝焼けはそんな二人を優しく照らし、二人の銀髪は朝焼けの光を受けて雪解けの雪の如くきらきらと輝いていた。
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