君の声

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
聞き覚えのある声が聞こえた気がした。 友達と来ているプール。高校生らしくばかみたいにはしゃいで笑って周りのことなんて気にしてなかったのに、周りの人だって楽しそうでうるさいくらいなのに、誰かの声が聞こえた気がした。 「健、どうした?」 「…え、なんか言った?」 「お前せっかくおれがうきわくぐり抜けるイルカの真似してたのに見てなかっただろ!」 「なにそのつまんないの笑」 「つまんないってなんだよー!」 「わかった、ごめんって笑 次は見とくからもっかいして?」 「もういいよ!次はシャチだ」 「ものまねはするのかよ笑」 気を取られて心配させちゃった。誰かわからない声が聞こえるなんてきっと気のせいだよね。 俺は罰ゲームで皆のご飯を買いに売店に向かった。 「芦屋?」 まただ、皆がいるテントはこことほぼ真反対にあるし、こんな広い中で知り合いと会うなんてめったにあるはずない、そう思ったのに。 「あれ?人違いでしたか?」 「え、西ちゃん…。」 俺の前にいたのは男らしい爽やかイケメンととてもかわいい女の子だった。 「やっぱり芦屋だ〜ひさしぶりだな。」 西本先生は俺の中学の担任で女子からも男子からも好かれる人気者だった。俺も家の事で色々あって不安だった時に先生は楽観的にだけど自分の事のように心配してくれて、お兄ちゃんのように慕っていた。 というか、先生の大切な人になりたいという思いをこじらせて今も彼女を作れていないくらいだ。 なのに、久しぶりに会った先生は子ども連れてるし、まず結婚したとか聞いてないし、てか子供めっちゃ可愛いし。なんだか複雑。 「…ひさしぶりだね!てか先生結婚したの?」 「そうそう。芦屋たちが卒業してすぐぐらいにな、ちかもすぐ生まれてもう4歳だよ。」 「ぱぱこのひとだれー?」 「この人はねパパの大事な生徒だよ」 「ふーん。」 「千花あいさつして?」 「こんにちは!」 「こんにちは。俺ね、健って言うの」 「けんくん?」 「そう、けんくんだよ〜」 「けんくんかっこいいね!」 「千花ちゃんこそかわいいね」 「んふふー。そうでしょ?ちかかわいいの。」 「先生、千花ちゃんかわいいね。」 「だろ?俺の自慢の娘だよ。」 「先生もかわらずかっこいい…。」 「なんだそれ笑芦屋もかわいかったのにこんなむきむきでイケメンでチャラくなっちゃって…。」 「先生最後のほめてないでしょ!」 「うそうそ笑 ほんとにかっこよくなったよ。」 「照れるじゃん笑 あ、俺早くご飯買って皆のとこ戻んないと」 「そっか。じゃあまたな!」 「うん!今度ご飯連れてって!」 「それは俺に奢らせたいだけだろ笑 まぁでも連れてってやるよ。」 「よっしゃー!笑 じゃあね先生。ちかちゃんもばいばい!」 「けんくんばいばーい!こんどちかのおうちきていいよー」 「ちかちゃんありがとね! おれやっぱり先生のこと好きだわ…。じゃあね!」 先生とちかちゃんとわかれて友だちのいるテントに戻りながら、もし俺がずっと子どもだったら、もし俺が女の子だったら、ずっと先生の横にいれたのかななんてありえない事を考えてしまった。 だけど、きっと、先生にほんとの意味は伝わってないけど、好きってやっと言えた。それだけでおれのほほはゆるみっぱなしだった。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!