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7月になると、隼太くんの言ってたとおり、夏の甲子園に向けての地区大会が開催され、野球部は授業を受けていなくても出席扱いになる、いわゆる認欠の日が何日かあった。
彼らが学校を休んで来ないということは、甲子園への切符を掴み取るという目標を一歩ずつ前進しているということだから、隣の席が静かでも、寂しくはない。
「…猫田さん、ちょっといいかな」
「あ、うん」
授業と授業のあいだの休憩時間に、片付けや準備をしていると、クラスの女子2人に声をかけられる。
なんだろう…悪口かな?
あまりクラスメイトとの交流はしていないため、つい身構えてしまう。
「猫田さん、最近金原くんと仲がいいみたいだから、いちおう声をかけておこうと思って」
「金原くん、忘れられない人がいるんだって。だからもし、金原くんに恋愛感情があるなら、やめておいた方がいいよ」
これは予想外だった。悪口を言われた方がまだマシだったかもしれない。でも、余計なお世話だ。
「そうなんだ。わざわざありがとう」
イヤミとして言ったお礼の言葉も、「どういたしまして」とあっさり返される。そんなこと、よく言えたもんだ。善意でやってるつもりなのか。何歳になっても、女子の群れと性質は変わらないものだな。
あ、でも。わたしはふと思った。もしかしたら、隼太くんのおかげで少し変われたのかもしれない。
中学のときは、どこにも居場所がなくて、どうしようもなかったのに、彼との交流を達成したことによって、心の拠り所が見つかった気がする。
ーーー勉強も、きらいじゃないっていう理由だけでやってたけど…
すきだからやろう、って思えるようになった。それもこれも、隼太くんのおかげだな…
自分というものに変化が起きている。悪い方ではなく、いい方に。
いま言われたことだって、隼太くん本人から直接聞いたわけじゃないし、確証もない。他人の言うことを気にしている時間があるなら、自分のやりたいこと、やるべきことに専念する。わたしは、隼太くんを見倣って、いまは勉強に集中することにした。
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