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隼太くんたち野球部がお休みした次の日。
登校して、教室にいる彼を見つけるなり、頼まれていたものを差し出す。
「おはよう、隼太くん」
「明瀬ちゃん。おはよう」
「これ、頼まれてたやつ。ルーズリーフに書いたから、これごと隼太くんにあげるね」
「え、いいの? おれのために、わざわざ時間かけてくれてありがとう」
「ううん、2回書いたおかげでわたしも復習になったの。こちらこそありがとう」
「あ、そうだ。昨日の試合も、勝ったよ」
「おめでとう。よかった」
「なんだか明瀬ちゃんが、スタンドで応援してくれてる気がしたんだ」
「そうなの? 授業中、ちょっとだけ試合がどうだったか気になってたせいかな?」
「えぇ、ちょっとだけなの?」
「うん、ちょっとだけだよ。だって、約束してくれたから」
"甲子園への切符をつかんで、明瀬ちゃんのもとへ帰ってくるよ"
「隼太くんが、そんな簡単に約束を破ったりしないってわたしは信じてるから」
「…そっか。そうだよね。そういうところもあって明瀬ちゃんが応援してくれてる気がしてたんだね。約束はちゃんと守るよ!」
「うん。ありがとう」
もしかしたら、隼太くんに都合よく使われてるかもしれない、なんて考えない。
あのときの約束が、冗談まじりのものだったとしても、その約束を結果的に守ってくれなくてもいい。
隼太くんに、ほかにすきなひとがいたって…構わない。
わたしは、わたしがいいと思った、信じた道を進むだけ。
だって、そういう生き方を教えてくれたのが、隼太くんだったから。
夏休みに入ってすぐのこと。
我が校の野球部が、地区大会を優勝したということを知った。
わたしと隼太くんの約束が果たされた瞬間だった。
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