激レア栗原くんとノーマル水田くん

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 それにしても、夏休み中の日曜日で、なおかつ大人気アニメのはずなのに、そのわりにまわしていく人が少ない気がしていた。でも、七栄は観察しているうちに、その理由が何となくわかってきた。そう、その理由とはズバリ、武内くんの缶バッチの割合が高いからだ。武内くんは七栄も苦手だったが、全体的に人気の薄いキャラであるうえに、人気の高い栗原くんの激レアバッチが、見える範囲外のところに、案外長く留まっているということも影響しているのかもしれない。  閉店まであと1時間半。見えないところに、推しキャラがいると願ってまわしてくれる人が訪れるのを、七栄は一心に願っていた。トイレに行きたくなっては困るので、持ってきた水筒のお茶を飲むのすら我慢していた。  ところがだ。19時ちょっと過ぎに、ポケットの中で振動がした。取り出して画面を見ると、メールではなく電話で、それは母からのものだった。おそらく、帰りが遅いので心配してのことだろう。  七栄は電話には出ずに、切れるのを待ってから、帰りが少し遅くなる旨のメールを送った。が、また電話がかかってきて、相手はやはり母だった。メールを打つのが苦手な母は、急ぎの要件のときは必ず電話をしてくるのを知っていたが、七栄にとってはたいした用事ではないことがほとんどだったので、今度はメールでの返信もするのをよした。
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