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けれども、またかかってきたのだ。これはもしかすると、本当の緊急事態なのか。そうこう思っているうちに電話が切れた。
スマホの画面を見つめる七栄の頭の片隅に、父、あるいは母親本人が具合でも悪くなったのかもしれないという思いがよぎった。そう思うと、いても立ってもいられなくなって、電話をかけざるを得なくなった。
七栄はガチャポンの台の前をうろついている人たちを目で追いつつ、母の携帯に電話をかけた。すると、ワンコールで母の声が聞こえてきた。
「今どこにいるのよ!」
母の声はイライラしていた。その大きさもいつもと同じだ。となると、どうやら彼女自身が具合が悪いということではなさそうだと、七栄は判断した。
「3回も電話してるのに、何で出ないのよ! いったい今、どこにいるの?」
母は一気にまくしたてた。
「……電車の中だったから、出られなかったの。だからメールしたんじゃん」
七栄は嘘をついた。
「ああ、そうだったの。それじゃ仕方ないけど」
「わざわざ電車降りたんだからね」
七栄は恩着せがましく言って、嘘を重ねた。
「それは悪かったわね」
「で、用事は何なの?」
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