森のカメラ

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木崎航平のカメラは、非常にユニークである。見た目はいたって普通の一眼レフカメラだが、中身が普通と違っていた。 「お〜い、航平〜!」 小走りで駆け寄って来る男がいる。航平と同じサークルで、同級生の宮沢である。 「・・・・何だよ急に」 航平は写真を撮ろうと構えていた手を止め、宮沢に目を向けた。 「なあ航平、お前のそのカメラでちょっと彼女を撮ってくれよ」 そう言って宮沢の後ろから現れたのは、このK大で現役ミスコングランプリの綾野リサだった。 「彼女って、ミスK大かよ。なんだよお前らいつからつきあってたんだ?」 航平は宮沢たちを冷やかしながら、被写体である綾野をレンズ越しに撮影した。 「航平、オレたちがつきあってんのナイショだぜ? リサのファンに恨まれたくないからなぁ」 「よく言うぜ。ミスK大とつきあってる時点でバレてるっつーの」 航平は今撮ったばかりの写真を画面で確かめる。 「ねぇねぇ見せて木崎くん。わたし、どんな感じで写ってる?」 綾野は目を輝かせながらカメラの画面を覗き込んだ。その表情に航平は、やっぱりさすがはミスK大。 可愛い表情をするなと思った。 「・・・・ん? これって・・・・」 航平の目に映ったのはなんと、女騎士の姿をした綾野リサだった。 「うっそ〜、ホントだったんだファンタジーカメラって!」 宮沢も期待を込めて画面を覗き込む。そこには、オンラインゲームの世界から飛び出した主人公のように、剣を腰に帯びた美しい出で立ちのリサが映っていた。 「おぉ〜すげーな! 女騎士って、マジかっこいいじゃんリサっ!!」 「え〜、そうかな〜? せっかく写るなら、どこかの王女様みたいな姿がよかったな」 少々不満気味の綾野だったが、自分が写った意外な姿を見て嬉しそうに微笑んでいた。 「いや〜それにしてもお前のこのカメラって、マジで不思議だよな? 見かけは普通の一眼レフなのに、写真撮ったら風景そのものがファンタジーに変わるって、いったいどんな仕掛けなんだよ?」 宮沢は実に面白いと感心しながらも、眉をひそめて頭を捻る。 「さあな。何でこんな写真が撮れるのか俺にもわかんね〜よ」 そう言ってカメラを眺めつつ、近くのベンチに腰掛けた。 このカメラと出会ったのは、つい一週間ほど前のことである。航平が森へこの時期にしか咲かない花の撮影に行った際に、落ちているのを拾ったのである。 それから何度か森に足を運んだのだが、カメラを探していそうな人物に会うこともなく、航平の手元に収まったままと言う現在に至っていた。 カメラの電源を入れて手がかりはないかと調べたが、何の収穫もなかった。ただ一つ分かったことは、試しにカメラで撮影してみたところ、カメラのフレームの中に映ったものが全て、何故かファンタジーの世界に置き換えられていると言うことだったのである。 カメラのこの特異な能力は他のカメラにはまず無かった。 航平はこの謎を、いつか必ず解いてみせる、と静かに心に誓った・・・・。 〈ー完ー〉
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