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---記憶がない。
目を覚ましたのは、敷きっぱなしの万年床。
すぐに右手で眼鏡を探した。寝る時はいつも、枕元に置いてあるから。
え? 眼鏡ない。
メガネメガネ。
昨日の飲み屋に忘れて来たのかもしれない。
大学のサークル飲み会で酔い潰れた後、後輩の介助でアパートまで帰って来たことは覚えている。
頭がガンガンする。身体中がベタベタだ。
とりあえずは水、それとシャワーだ。
ボヤけた視界で、水道水を浴びるほど飲んだ。
よろけながら風呂場へ辿り着き、服を脱いで全部洗濯機に放り込む。
ひたすら熱い湯を浴び、水分が体内に行き渡るとサッパリする。
メガネがなくとも、身体くらいは洗えるもんだ。
もう一度シャワーを浴びまくって、風呂場から出た。
雑に髪を拭いて、適当な部屋着に着替える。
習慣的にスマホを手にすると、ラインに着信が出ているのに気づく。
サークルの後輩からの伝言。
『先輩メガネ忘れてたんで持ってきたけど、鍵閉められちゃったんで郵便受けに入れときました』
「……持って来たんなら人の横に置いておけっての」
舌打ちしながら廊下を進み、郵便受けに手を突っ込む。
冷たいグラスの手触りがあった。
引き出すと、一緒に何か白いものが出てくる。
「……うん?」
とりあえず、先にメガネをかける。
一気にクリアになった視界に現れたのは、白い封筒だった。
メガネと一緒に郵便受けに入っていたらしい。
ダイレクトメールかな、と思いながら封筒を裏返すと。
『夕暮れの写真屋さん』
住所:×××××-×××××
「???」
なんだこりゃ。写真屋?
変な名前の店だな。
封を破ると、出て来たのは白い紙に包まれた一枚の写真。
---それを目にするなり、背筋に悪寒が走った。
「な……んだよ、コレ」
そこに、写っていたのは。
おそらくは夜の屋外。街灯の下で撮られたものだろうか?
---血塗れで目を閉じたまま地べたに横たわる、己の全身写真だった。
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