その時間《とき》まで

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「二十歳の彼女にすれば、七十になる会長は、おじいちゃんにしか見えないだろうけど。プロとして、その接客態度はいかがなものかと、内心かなりイラついていました」 「それは、お疲れ様でしたね。そんなナナちゃんの事を、お店の方をはじめ、誰もたしなめなかったんですよね?ん~。だとしたら、それはナナちゃんの接客テクニックだったのかもしれませんね」  ふと、思いついた事を口にした。彼は私を見て、両目を瞬かせた。 「あるいは、真面目なあなたを、みんなでからかってみた、とか?」  彼は、無言で瞠目した。そして、再び大きく息を吐いた後、クスクスと笑った。  彼のそんな様子に、私は小首を傾げた。 「あなたの、仰る通りだと思います。どんな冷たい態度をとられても、会長が機嫌を悪くする事はなかった。途中から『可愛い孫娘の機嫌をとるじいじ』みたいな、微笑ましい光景となっていました。帰る時にはしっかりと、会長とナナちゃんはハグをしていました」  その光景を思い出したのか、彼は苦笑を浮かべた。 「自分が上司に『店を変えた方がいいのでは』と進言しても、肩を叩かれて終わりました。その後ナナちゃんに、やけにピッタリとくっつかれたのは……そうか、そういう事だったのか」  最後は、呟くように言った彼。私は、自然と笑みが溢れた。  こんな完璧な容姿で、女性からのお誘いも数多あるだろうに。彼はきっと、そんなお誘いに簡単にはのらないのだろう。女慣れした人なら、自分にすり寄ってくるナナちゃんを、うまくかわせたはずだ。
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