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彼にしてみれば、オバサンをちょっとからかっただけかもしれないけど。
「じゃあ、約束してください」
彼の言葉に、再び視線が囚われる。
「次お会いした時には、今度こそ飲みに行きましょう。……たとえ、最終列車を逃す事になっても」
「っっ!!」
彼が長い腕を伸ばし、イス一脚分の空間はあっさりと埋まった。
差し出された彼の右手の小指。小指なのに、ずいぶんと長い。
彼は微笑んでいるけど、その瞳は真っ直ぐに私を見ていた。
私は引き込まれるように、自分の右手の短い小指を彼のそれに絡ませた。
「「指切りげんまん 嘘ついたら 針千本飲ーます 指切った」」
二人で囁くように歌って、指切りをした。
指切りが終わっても、小指を絡めたまま見つめあった。
冬の夜の冷たい空気が、徐々に色づき、温いものへとかわっていく。
『♪~』
そんな空気を断ち切るように、電子音が響いた。私のスマホだ。
名残惜しく思いながらも、小指を外す。
バッグからスマホを取り出し「ごめんなさい」と彼に断った。
「どうぞ」と彼は微笑んだ。
イスから立って、彼から離れる。壁に寄り添うようにして、彼に背を向けた。
ダンナからの着信だ。スマホを、震える指でタップした。
「もしもし」
自然と、声は抑えたものになった。
『お疲れ!今、そっち向かってるから』
「えっ!?ご飯、食べてたんでしょ?迎えは無理だって」
『ああ、もう食べ終わったから。子ども達が、母さんを迎えに行くって言うから』
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