その時間《とき》まで

13/14

20人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
 彼にしてみれば、オバサンをちょっとからかっただけかもしれないけど。 「じゃあ、約束してください」  彼の言葉に、再び視線が囚われる。 「次お会いした時には、今度こそ飲みに行きましょう。……たとえ、最終列車を逃す事になっても」 「っっ!!」  彼が長い腕を伸ばし、イス一脚分の空間はあっさりと埋まった。  差し出された彼の右手の小指。小指なのに、ずいぶんと長い。  彼は微笑んでいるけど、その瞳は真っ直ぐに私を見ていた。  私は引き込まれるように、自分の右手の短い小指を彼のそれに絡ませた。 「「指切りげんまん 嘘ついたら 針千本飲ーます 指切った」」  二人で囁くように歌って、指切りをした。  指切りが終わっても、小指を絡めたまま見つめあった。  冬の夜の冷たい空気が、徐々に色づき、(ぬる)いものへとかわっていく。 『♪~』  そんな空気を断ち切るように、電子音が響いた。私のスマホだ。  名残惜しく思いながらも、小指を外す。  バッグからスマホを取り出し「ごめんなさい」と彼に断った。  「どうぞ」と彼は微笑んだ。  イスから立って、彼から離れる。壁に寄り添うようにして、彼に背を向けた。  ダンナからの着信だ。スマホを、震える指でタップした。 「もしもし」  自然と、声は抑えたものになった。 『お疲れ!今、そっち向かってるから』 「えっ!?ご飯、食べてたんでしょ?迎えは無理だって」 『ああ、もう食べ終わったから。子ども達が、母さんを迎えに行くって言うから』
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加