その時間《とき》まで

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「・・・」  とっさに、言葉が出てこない。「ありがとう」も「嬉しい」も、言えなかった。 『かあさん、今日は悪かった。駅、だよな。ついたらまた、電話する』 「あっ……」  相変わらず、ダンナのペースで通話は切られた。  溜め息をついた後、窺うように後ろを振り向いた。  ──そこに、彼はもう、いなかった。  夢、だったのだろうか?それとも、幻?  スマホをバッグにしまい、自分の右手を見つめた。  でも、はっきりと残っている。彼の小指の感触も、体温も。  私が最終列車に乗るのは、多くても年に一~二回。去年は、一回も乗らなかった。  名前も、連絡先も知らない。私が彼と会う事は、もう二度とないだろう。  それでも……  最終列車に乗ろうと思うたび、私は彼の事を鮮やかに思い出すのだ。  甘い疼きと、せつなさを抱えながら……
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