20人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
トノさんの外見も、どちらかというと地味だと思う。ただ、はにかんだような笑い方が、妙に可愛く見える。あまり表情が動かないトノさんが、クスリと、はにかんだように笑っているのを見つけた時は、ちょっと嬉しくなってしまう。
最初は「接客業なのに、それで大丈夫?」なんて心配したのに、ふと気付けば、トノさんに不思議な魅力を感じていた。
トノさんに、いつもは頼まないカクテルを作ってもらって飲んだ。どれもおいしくて、きれいなカクテルだった。
最後には、トノさん特製のチョコムースが出てきた。なめらかで濃厚でほろ苦で。ただ甘いだけじゃない繊細な味のチョコムースに、みんな心を捕まれた。
お店の外まで出て、トノさんは私達を見送ってくれた。あの、はにかんだ微笑みを浮かべて。
ビルの外に出て立ち止まり、みんな、なんとなくホゥと息を吐いた。
「カクテル、おいしかった」、「チョコムースも絶品!」、「トノさんて、おもしろい」と、みんなで笑いながら言いあった。
「あのチョコムースは、ずるいよね。このチョコムースを作ったのが、あんな感じのトノさんなんて!私、ギャップに『キュン』としちゃった」
アラフォーグループの中では一番若手の原口さんが、うっすらと赤く染まった頬を押さえながら言った。
「中野ちゃん、トノさんは実は“曲者”だって事はない?」
久米さんが、からかうような笑みを浮かべながら、中野さんの肩に自分の肩を軽くぶつけた。
「う~ん。トノさんがそういう強かなヤツだったら、私の心配が減るから、それはそれでいいの!」
苦笑を浮かべながら、中野さんが肩を竦めた。
最初のコメントを投稿しよう!