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いや、それよりも。私は彼との関係を、はっきりとさせたくなかった。彼と再び話をして、自分の思っていた事が勘違いだとわかったら……かなり、落ち込む。「厚かましい」とか言いながら、やっぱり夢はみていたいのだ。
だから、彼とはもう会わない。今日の彼も、しっかりと記憶の中に留めた。記憶の中の彼なら、会いたい時に会える。私が望むように、彼が私に笑いかけてくれるから。
そう決心はしたが、もう一度、彼と話したいという気持ちも当然ある。
彼に背を向けて、駅の外へと歩き出した。彼が私を待っている訳ではないのに、勝手に後ろ髪が引かれる。駆けるようにして、階段を降りていた。
駅舎の外に出て立ち止まった時、スマホが震えた──
ダンナとの通話が切れ、マナーモードを解除して、スマホをバッグに落とした。おそらく五分もしないうちに、ダンナと娘達が私を迎えにきてくれる。
──心の片隅、誰にも秘密で彼を想う。たとえそれが、私の大事な人達を裏切る行為になったとしても……
END
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