甘雨のあと

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「ここで食べよう」 「はいっ」 ベンチは人目を気にせず過ごせるよう東屋のようになっており、しずくはほっと息をつく。 「しずく、早く食べないと溶けるぞ」 「あっ、……いただきますっ」 出店で買ってきた袋を開ける宗一郎の隣で景色を眺めていたしずくは、手に持っていたものを思い出し溶けかけて柔らかくなったソフトクリームを慌てて一口食べた。 「……おいしい!」 冷たさのあと、口に広がる甘さに微笑んで隣の宗一郎を見上げる。 「そうか、……っ、しずく」 「えっ?」 優しく頷いてくれたと思ったと同時に、宗一郎に少し焦った様子で手首を捕まれソフトクリームごと前へ引かれる。 その後すぐ手の甲に冷たい感触がして、ポタリと地面に白い雫が落ちた。 「急いで食べないと溶けるな」 「あ、ありがとうございます……っ」 頷いて服に雫が落ちないように気をつけながらソフトクリームを食べようとしたが、中々食べきれない。 「……しずく、一口食べていいか」 「っ、はいっ」 見かねた宗一郎に声をかけられ、しずくは大きく頷いてソフトクリームを宗一郎の口元に差し出した。 少し驚いた宗一郎が大きく一口食べて、ソフトクリームはひとまずコーンの縁に収まってくれる。 「よかった……、宗一郎さん、ありがとうございます……、ひゃっ」 ほっとしていた所で手の甲に這った感触に、しずくは肩を竦めて宗一郎を見た。 どうやら彼が手に垂れたクリームを舐めた様で、宗一郎はしずくと目が合うと悪戯っぽく微笑む。
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