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じっと見つめているとしずくが幼い仕草で目元を擦り始めて、宗一郎は慌ててその手を掴む。
擦れて先程よりも赤くなった目尻には、いつの間にか涙が浮かんでいる。
「宗くん、しずくのこと嫌いなの…?」
「…ん?」
予想外の質問に驚いて目を瞠ると、すぐに否定の言葉を聞けなかったしずくは泣き出してしまった。
「ふ…っ、う」
「しずく、嫌いな訳無いだろう?…だから泣かなくていい」
何故そんな結論に至ったのか分からないが、彼が悲しんでいるのには間違いない。
次々と頬を伝う涙を拭ってやりながら、宗一郎はいつもより幼い泣き方をするしずくの背中を優しく摩った。
──泣き上戸なのか…?
今までこんな風に酔った姿を見た事が無かったが、これでは益々外に出せない。
先程大人気無かった自分を戒めたというのに、早くも折れてしまいそうだった。
──私が傍に居るせいだと思いたいが…。
「しずく、どうしてそう思った?」
「…っ、ひっく…」
幼い子に問いかけるように務めて優しく聞けば、涙に濡れた瞳が宗一郎を見上げる。
その宝石のような煌めきに吸い込まれそうになるが、今は彼の本心を聞かなければならない。
「…いじわる、するから…」
「意地悪?」
「いじわるする宗くん、きらい…」
「…っ」
先程店でしずくを困らせた事を言っているのだろうか。
本気で言っていないのは分かっているが、実際“嫌い”という言葉を聞くのは思ったよりも胸に来る。
──自業自得か…。
大人気無くしずくを困らせたのは、全部宗一郎の未熟さから来る嫉妬心と独占欲からだ。
しずくは何も悪い事をしていないし、慣れないあの場所で馴染もうと一生懸命振る舞っていた。
──わかっていた筈なのに。
「しずく、すまない」
「…」
「…嫉妬したんだ、…それで君を困らせた」
「…ん」
見上げるしずくの額にそっと口付ければ、ぱちりと瞬いた目尻から一筋雫が零れた。
「君が藤川先生と仲良くするのを黙って見ていられなかった」
「…うん」
「だから…」
作家だというのに上手い言葉が見つからず俯けば、細い指が髪に絡んで優しく撫でられた。
そのまま慰めるように撫でる手に縋りたくなって、宗一郎は腕の中の細い身体を抱きしめる。
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