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リビングに入るとすぐ、キッチンに立つ宗一郎の姿を見つけた。
既に調理を始めている彼はスーツのジャケットを脱いだだけの姿でエプロンを付けていて、着替える間もなくキッチンに立った事が伺える。
きっちりしたネクタイとエプロンは宗一郎の魅力を存分に引き立てているけれど、今は見蕩れている場合じゃない。
「宗一郎さん、代わりましょうか」
我に返って慌てて傍に行けば、振り向いた宗一郎が微笑んで首を横に振った。
「もう少しだから、大丈夫だ」
「ありがとうございます。じゃあ俺、サラダ作りますね」
「あぁ」
──確かにもう少しで出来上がるみたい。
しずくは頷いて付け合せのサラダを作り始める。
野菜を用意しながら隣でフライパンを振る宗一郎の様子を見ていると、彼が困ったように笑ってしずくを振り向いた。
「そんなに見られると、落ち着かないな」
「ぁ…っ、ごめんなさい!」
「君に触れたくなる」
「え…っ?」
慌てて謝れば不意に頬に口付けられ、しずくは赤くなって頬を押さえる。
「…もう…」
「…ほら、しずく」
赤くなった頬を冷まそうと作業に集中していると優しく呼ばれ、顔を上げると目の前にスプーンがあってぱちりと瞬く。
スプーンには出来立てのチキンライスが乗っていて、しずくはそっと宗一郎を見上げた。
──食べて、良いのかな…?
「あーん」
「…っ、あ…」
考えているうちに声をかけられ、思わず口を開けて食べてしまう。
食べさせてもらった事にまた恥ずかしさで鼓動が早くなるが、口に広がったチキンライスの美味しさにしずくは微笑んだ。
「おいしいです…」
「そうか」
しずくの様子を見ていた宗一郎が頷いて、自分も一口味見をする。
どうやら及第点だったようで宗一郎は微笑んで場所を空けた。
「よし、じゃあ頼む」
「はいっ」
頷いてコンロの前に立ったしずくは笑ってフライパンに火をかける。
その様子を楽しそうに見つめる宗一郎に少し緊張しながら、しずくは溶き卵を流し込んだ。
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