星あかりの下で

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宗一郎が着替えるのを待って二人でテーブルにつく。 目の前には我ながら綺麗に巻けたオムライスが置かれていて、しずくは微笑んだ。 「いただきます」 二人で手を合わせてから食べ始める。 一口食べた宗一郎が微笑んだのを見届けて、しずくもオムライスを口に運んだ。 「美味い」 「おいしいです」 同時に呟いたのが可笑しくて、思わず笑ってしまう。 こうして一緒に食事が出来ることが、嬉しい。 ──宗一郎さんも、そうだと良いな… 二人向かい合ってオムライスを食べていると、宗一郎に招かれて初めてここへ来た時の事を思い出す。 あの日緊張でそわそわして落ち着かなかったリビングは、もうすっかりしずくの居場所になっている。 ──大切な、失くしたくない場所。 「…しずく?」 「…ぁ、すみません、ちょっと考え事を」 「そうか」 スプーンを持つ手が止まった事に気付いた宗一郎から声をかけられて、慌てて食事を再開する。 「ここで初めて食事した時の事、覚えているか?」 「…っ、はい」 先に食べ終わった宗一郎に丁度思い出していた事を不意に持ち出され、しずくはオムライスを喉に詰まらせそうになりながら顔を上げた。 懐かしそうに目を細めた宗一郎が、手を伸ばしてしずくの黒子を撫でる。 「あの時、君は再会してから初めて砕けた笑みを見せてくれた」 「…はい」 「とても、嬉しかったよ」 「…っ」 そう言って優しい笑みを浮かべた宗一郎に、今すぐ触れたくなる。 隙間無く抱きしめて、抱きしめ返して欲しい。 「…そんな顔、するな」 「ぁ…っ、ごめんなさい…」 しずくの変化に気付いた宗一郎が手を離して、困ったように微笑んだ。 余程情けない顔をしていたのだろう。 恥ずかしさに俯いて残りのオムライスを口に運んでいると宗一郎が立ち上がって屈み、しずくの耳元へ顔を近付けた。 「あまり煽らないように」 「…ぇ…っ」 低く呟いた宗一郎が目尻に口付けて顔を上げ、悪戯っぽく微笑む。 赤くなって耳を押さえたしずくは、言葉が出なくてぎゅっとスプーンを握りしめた。 「…風呂に入ってくる」 「…はぃ…」 宗一郎は顔を上げられないしずくの髪を優しく撫でてから、食べ終えた皿を流しに置いてリビングを出て行く。 「…どうしよう…」 先程までの和やかな空気が一変して、色事を思わせる雰囲気になってしまった。 考えない事で何とかやり過ごしていたのに、こうなってしまうともう──。 しずくは熱のひかない頬を軽く擦って、残りのオムライスをなんとか食べ終えた。
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