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動揺を抑えながら後片付けを終え手持ち無沙汰になったしずくは、ひとまず寝る準備をして寝室へ向かった。
キッチンや洗面所を忙しく歩き回っていた時は良かったが、用事が無くなると途端に落ち着かなくなってしまう。
「……」
──どうしよう…。
ベッドに腰掛けてしばらくじっと俯いていたがいても立っても居られなくなり、しずくは寝室を飛び出した。
そのまま窓辺へ向かい定位置のラグへと腰を下ろす。
「はぁ…」
熱いままの頬を包むように掌で顔を覆えば、暗くなった視界に少し落ち着いてしずくは肩の力を抜いた。
気を取り直して帰って来てから放置したままだった鞄からスケッチブックを取り出す。
──桜…。
宗一郎にも見てもらいたくて、描いた桜。
本当は、一緒に見たかったけれど──。
ぼんやりと鮮やかに染まったキャンバスを眺めているとリビングの扉が開き、しずくははっとして顔を上げた。
入ってきた宗一郎としっかり目が合い、思わず勢い良く目を逸らしてしまう。
──わ…っ、変に思われちゃったかも…っ。
ぎゅっと目を閉じてスケッチブックを抱き締めていると、傍に来た宗一郎が隣に腰を下ろした。
「しずく」
「…ぁ…」
俯いた頬にかかった髪を優しく後ろに流されて覗き込まれる。
余裕の無い様子を見て少し困ったように微笑んだ宗一郎は、しずくを引き寄せ膝の間に座らせた。
「わ…っ」
「何か描いたのか?」
「あ…えっと…」
バランスを崩した身体を後ろから抱きしめられて胸元にあるスケッチブックをつつかれる。
しずくは慌てて頷いて、今日描いた桜のページを開いた。
「…桜か」
「ん…」
宗一郎が見やすいようにスケッチブックを持ち上げると、大きな掌が重なってしずくの手を支える。
そこからじわじわと温かさが滲んで、しずくはほっと息をついて宗一郎に背中を預けた。
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