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風呂から戻ってきたばかりで背中に触れる宗一郎の身体は温かく、しずくの激しく揺れていた気持ちが少しずつ落ち着いていく。
「綺麗だ」
「…宗一郎さん?」
深く息を吐くように耳元で呟いた宗一郎が抱きしめる腕に力を込める。
少し切なさを帯びた声色に、しずくは身動いで彼を見上げた。
「君の目を通して見る世界が好きだよ」
驚いて瞬けば目元に口付けが落ちて小さく肩が跳ねる。
宥めるように目元の黒子を優しく撫でられて、しずくは宗一郎を見つめ返した。
「君の描く絵はいつも、君の気持ちを教えてくれる」
「俺の…?」
首を傾げれば宗一郎が頷き、二人で持っていたスケッチブックを丁寧に閉じてラグへ置く。
「今日は寂しい思いをさせてすまなかった」
「そんな…、お仕事でしたから…っ」
「でも、君を不安にさせた」
「ぁ…っ」
──そうか。
桜の絵から、気持ちが伝わってしまった。
宗一郎さんを思って描いたから──。
恥ずかしくなって俯くと、頭を優しく撫でられてしずくはぎゅっと掌を握りしめた。
──もっと、近くに行きたい。
温かい腕から抜け出して向き直り宗一郎を見つめる。
「…甘えても、いいですか…?」
「もちろん、──おいで」
優しく腕を広げた宗一郎の首元に、手を伸ばして抱きつく。
ぎゅっと抱きしめて首筋に擦り寄れば、背中に回った温かい腕がしずくを強く抱きしめ返した。
「おかえり、宗くん…っ」
「ただいま」
──気持ちいい…。
広がる安堵に微笑んで身体を預けていると、宗一郎の指にそっと髪を梳かれてしずくはその手を掴む。
「“約束”、守ってくれてありがとう」
「あぁ」
好きにさせてくれる宗一郎の手を自ら頬に当てて擦り寄る。
そのまま愛しい指に口付ければ、少し困ったように覗き込まれてしずくは瞬いた。
「手もいいが、こっちにしてくれないか?」
「…っ、あ…」
空いた手で自分の唇を指した宗一郎に赤くなって俯く。
ぎゅっと彼の手を握りしめると、ゆっくり指を絡めて繋がれてしまった。
「…目、瞑って?」
小さな声で頼めば笑った宗一郎が頷いて目を閉じる。
しずくは深呼吸して、おずおずと形の良い唇に自分の唇を触れ合わせた。
「ん…」
いつもならすぐに応えてくれる宗一郎の唇は、今日は動かない。
しずくは瞳を潤ませて柔く唇を食んだ。
──ここから、どうすれば…?
一度唇を離せばゆっくり瞼を上げた宗一郎と目が合う。
すぐに再び目を閉じた宗一郎に、覚悟を決めたしずくは膝にぐっと力を込めた。
膝立ちになって宗一郎の足を跨げば二人の身体が近くなる。
しずくはそっと宗一郎の頬に手をかけて再び唇を合わせた。
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