帰省の夏

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「あんた、ちゃんと一人で帰ってきてよね」  電話越しの母の不機嫌そうな声に、私は自然と横目で父を見た。  白髪の混じる短い頭髪。眼鏡の奥の力ない瞳。目元と口元に刻まれた深い皺。少しやつれたような姿に、また母と喧嘩でもしたに違いないと私は呆れかえっていた。 「お父さん。またお母さんと喧嘩したの?」  電話を切った私は、隣を並んで歩いていた父に声をかける。 「まぁな」  父は困ったように眉を寄せると、照れ臭そうに頬を緩めた。  今度は何をしたのだろう。靴下をその辺に脱ぎっぱなしにしたのか、それとも母の好きな水羊羹を勝手に食べたのか。  どちらにしても相変わらず仲がよろしいことでと、三十路手間でまだ独身の私は静かに溜息を吐き出す。  私はお盆休みに実家の田舎町に帰省して、こうして父とお墓参りに来ていた。  夕暮れ時の蝉が喧しく鳴いている中で、桶や線香を車に積むなり私は運転席に乗り込んだ。助手席に乗っている父は、少し緊張した面持ちで座っている。 「ちゃんと運転出来るのか?」 「できるよ。何年車に乗ってると思ってるのよ」  私は少しムッとしながらシートベルトを締める。そういえば父を助手席に乗せるのは初めてかもしれないと、ふと思った。 「そういえばお父さんを乗せて運転だなんて、初めてだよね」  私はそう言うとゆっくりとアクセルを踏み、車を発進させていく。なかなか上手い滑り出しに、どうだとばかりに横目で父を見やると、父も満足そうな表情で前を見つめていた。
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