帰省の夏

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「そうだったな。それにしても、なかなか様になってるじゃないか」 「でしょ! こう見えても都内でも運転することが多いんだからね」 「凄いじゃないか。父さんも都内を車で走ったことがあるけれど、道が複雑過ぎてもう行きたくはない」  父の言葉に私は「確かに複雑だよね」と満足気に頷く。日ごろから都内を車で走っている私は、内心得意げな気持ちになっていた。 「ところで仕事は、上手くいっているのか?」 「うん……なんとかね」  父が切り出した仕事の話に、私はさっきまでの鼻持ち高かった気分が一気に萎んでいく。  就職を機に実家を出て上京して、もう三年近く経とうとしていた。大学を卒業した私は、東京にあるインテリアデザインの会社に就職をしていて、そこで今も働いている。  もともと飛びぬけたセンスなど持ち合わせていないのに、背伸びし過ぎたのかもしれない。いつかは自分で考えた家具が世に出回ったら凄い、などとあり得ない夢ばかりみるだけで、実際の仕事は上手くいっていなかった。  後輩にもどんどん営業成績を抜かされ、企画はどれも落とされていく。明らかに自分には向いていなかったのだ。  最近は胃がキリキリと痛み、朝起きるのすら堪らなく辛かった。 「こっちに帰ってくれば良いじゃないか」  父の発言に私は内心驚く。それでも「どうして?」と平然を取り繕って、無理矢理笑みを作る。  時々電話で話をする母にですら、私は言えずにいた。  迷惑をかけたくないし、こっちで仕事を探せばいいと言っていた両親の言葉に背いてまで、わざわざ東京に出ている。今更、どんな顔をして戻ればいいのか分からなかった。
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