早乙女誠 視点

2/3
前へ
/8ページ
次へ
「えーこれより第47回第一国際大学、異文化交流サークルのぉぉお………夜桜飲み会を始めるぜ野郎共!!!」  代表の乾杯の挨拶にそれぞれがテンション高々に紙コップを頭上に掲げる。  大きくて二つに分かれた歪な桜の木は毎年定番の場所。大小バラバラな4つのブルーシートで桜の木を囲い、それぞれが仲のいい人同士で座っていた。中にはサークル外の人間もいるが、そこはご愛嬌だ。  サークル費で賄われたオードブルに箸をつけながら、ブルーシートの端でひっそりと紙コップのビールを煽った。  思えばあの日から一年が経とうとしていた。  入学式の為に買ってもらった少し高いスーツに着られながら入学式会場まで歩く俺は、県内で最も広い面積を持つと言われる大学の敷地内で迷っていた所を、健人さんが見付けてくれたのだ。  その後成り行きでサークルに入り、単位が取りやすい授業や、レポートが少ない授業、就職率が高いゼミを教えてもらって、短いけれど密度の濃い時間を過ごしていくうちに健人さんを好きになり、玉砕覚悟で告白して奇跡的に付き合えたのが三ヶ月前。  「今、会場に着いた」と一言書かれたメッセージに、「席取っておきましたよ」と返事をしてスマートフォンをポケットにしまった。 「悪い、遅れた」 「っ健人さん!こっち……」  その連絡から少しして会場に現れた健人さんのために取っておいた自分の隣を叩きながら軽く手をあげて呼んだ。 「あれ、健人くん?」 「わー高橋先輩来てたんですか?」 「高橋くん一緒にあっちで飲もうよー」 「あ、ちょ……」  目印として挙げた手は、宙を彷徨った後に役目をなくしてそっと自分の膝の上に戻った。  女性陣に連れられて隣のブルーシートに引っ張られて行く先輩を横目に小さく溜息をついて、紙コップに残ったビールを一気に飲みほすとその場から立ち去った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加